約 3,817,204 件
https://w.atwiki.jp/bokuserve/pages/1123.html
【元ネタ】史実 【CLASS】ライダー 【マスター】 【真名】武霊王 【性別】男性 【身長・体重】196cm・101kg 【属性】混沌・善 【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷D 魔力C 幸運D 宝具A 【クラス別スキル】 対魔力:D 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。 騎乗:B 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。 【固有スキル】 カリスマ:C 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。 カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。 話術:C 言論にて人を動かせる才。 国政から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。 変装:D 変装の技術。 列国に知られる王でありながら、一人の使者として変装して秦国に潜入し、 その長短を直に観察し、秦王と謁見して言葉を交わした逸話が残っている。 【宝具】 『胡服騎射(コォフー・チィシャ)』 ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:800人 かつてライダーが率いた、趙を軍事大国に成長させた弓騎兵団をサーヴァントとして現界させる。 召喚されるのはいずれもマスター不在のサーヴァントだが、 それぞれがE-ランク相当の「単独行動」スキルを保有し、 最大20ターンに及ぶ現界が可能。 この軍団の中にはライダーがスカウトした有能な教士も含まれており、 教士達に師事することで、ライダー陣営の者にE~Dランク相当の 「騎乗」、「弓術」を覚えさせることが可能。 【解説】 中国戦国時代の趙の騎兵王。姓は嬴。氏は趙。諱は雍。在位紀元前326年-紀元前298年。 趙の家系の中ではじめて王と追号された人物である。 若い頃から人高馬大で勇気と力量は抜群、更に聡明さも持ち合わせており、 趙軍には機敏さが欠けるということに目を付け、遊牧民族の騎兵制を取り入れようとした。 しかしその為には当時の中華のスカート状の服を、遊牧民のズボン状の服(胡服)に 変えなければならなく、その事は叔父の公子成から反対されてしまう。 遊牧民を蔑視するのは当時の中華では当然のことであった。 しかし、武霊王は粘り強く叔父を説得し、遂には「胡服令」を伝達し、 騎兵軍を作り上げ、趙を軍事大国に成長させた。 こうして、馬は戦車を牽くものという常識を覆し、騎兵を取り入れたことは後の中華全土に広まり、 兵制と軍服に大きな影響を残した。これが「胡服騎射」の逸話である。 王位を子の恵文王に譲った後も主父と名乗り、実権を握っていたが、 その最期は息子達の王位継承争いに巻き込まれ餓死するというものであり、 これを司馬遷は「後継を逡巡したことで天下の物笑いとなった」と厳しく評価している。 【コメント】 キングダム読んでて思いついた。知力も行動力も高く、冒険心豊かな有能な革新者でありながら 優しさ(甘さ)故に悲劇的な最期を迎えるという、主人公性は充分。 名に含まれる「霊」は中華では侮蔑的な意味らしいが、個人的には充分な名君であったと思う。 軍勢宝具は、数も質もイスカンダルのそれに大きく劣るが、その殆どが「弓兵」でもあるので、 最大補足レンジは王の軍勢ともタメを張る設定。 イスカンダルの軍勢が「全員が掛け値なしの英霊」ならば、 武霊王の軍勢は「少数が掛け値ありの英霊」といったところ。 武霊王の威名に連れられてサーヴァントとなったが、 彼らの殆どは英霊の座に招かれてはいない。 とはいえ、一般人とは比べるまでもなく強力な個体の集団であることは間違いなく、 準英霊と言ったところ。 軍勢召喚系の宝具は多くあるが、その中でもイスカンダルのそれが最強だって設定。 適正クラスはライダーとアーチャー。
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/979.html
「―――そう、穂群原学園だ。被害は甚大……そうだ。不発弾の爆発でそうなったということにしよう。では、そのプランに沿って頼む」 事後処理を行う教会のスタッフに電話で連絡をした後、神父である男は受話器を置いた。 そして、教会の入口に目を向ける。そこにはスーツ姿の女性が立っていた。 「良く来てくれた。バゼット・フラガ・マクレミッツ」 「お気になさらずに、言峰綺礼」 聖堂教会の人間と、魔術協会の人間、決して歩み寄らない両組織の人間が邂逅した。 「―――前回の聖杯戦争は陰惨を極めた。殺人鬼がマスターとなり、本来の監督役であった私の父は死亡、そしてあの大火災、 秘密裏に行われるはずの戦争が世間にこうまで被害を与え、神秘の隠匿という大前提を崩壊させる寸前まで行われたことは、実に憂うべきことだ」 言峰は首を振り、悲観した風に締めくくった。 「君にはこの聖杯戦争で前回のように狼藉を働くマスターとサーヴァントを狩る事に協力してもらいたい」 「ええ、私もそのつもりで来ました」 言峰の言葉に、バゼットは快く応じた。 ―――バゼットは気づかない。言峰綺礼が彼女の令呪が刻まれている左手を見ていることを。 「私はアサシンを召喚しました。彼ならマスターの情報を集める事にも、危険な存在の排除にもうってつけでしょう」 「アサシンか、それは好都合なサーヴァントを召喚したものだ」 満足げに頷く言峰は―――決定的な一言を口にした。 「ああ、ところで『それ』のことだが」 「?」 バゼットの視線が、言峰が指差した先、祭壇の上の十字架に向けられる。 何の変哲も無いホーリーシンボルに、バゼットは首をかしげた。 その隙を、言峰綺礼が見逃すはずも無い。 一瞬で黒鍵の刃を顕現させると、女の左腕を穿ちにかかる。殺気に気がついた女が振り向いたときにはもう遅い。 バゼットの表情、驚愕と哀哭がない交ぜになったそれを見て、言峰綺礼は嗤った。 「ああ、そうだ。その表情が見たかった」 言峰の奇襲は完璧に近い。もし、この場にバゼットの味方である第三者がいたとしても、普通の人間では対応すらできないだろう。 ―――あくまで、普通の人間ならば。 ドアを金槌で叩くような音がした瞬間、鉛弾は直線の弾道を描き飛んでいく。 教会の扉を撃ち抜いた一発の火線は、即座に刃物を持つ腕に命中した。 防弾機能と防護の術式が編まれた僧衣は大した威力でも無い銃弾を通さなかったが、衝撃まで殺しきることはできず、黒鍵は甲高い音を立てて床に転がり、言峰はバゼットに体勢を立て直させる暇を与えた。 バゼットは、奇襲を仕掛けてきた本人を見やりながら、距離を取る。 「念のため、鍵穴から中を覗いておいて正解だったな」 銃撃した当人は素早く扉を開けて入り、ポツリと呟いて銃口を神父に向けた。 「―――ク。暗殺者の英霊相手に騙し討ちは分が悪かったか」 獣のような笑みを浮かべる神父にアサシンは無言で銃を撃つ。銃創が神父の額に穿たれ、仰臥して斃れた。 「……」 無言で立つバゼットの額には冷や汗が浮かんでいた。 それはアサシンを奪われそうになる程、自分が弱いことに気がついたからだ。 言峰がかつてと比べて更に研鑽したのか、そうでないのかは、バゼットに知るよしもない。しかし、これだけは言える。 言峰にはバゼットと戦う意思があり、自分には言峰と戦う意思が無かった。 だから、簡単に騙され、殺されかけた。アサシンがいなければ、自分は早々に脱落していた。 その事実に、屈辱と恐怖が涌き上がってくる。 「バゼット、退くぞ」 アサシンの言葉にようやくバゼットは我に返った。 正当防衛だったとはいえ、自分達は監督役を殺害したのだ。早々に立ち退かなければ厄介なことになる。 「まだ調べたいことはあるが、諦めろ。下手をすれば敵が増えかねない」 「……ええ、確かに」 アサシンの先導でバゼットも教会を出る。一度だけ振り向いて言峰の遺体を見やった。そしてすぐに踵を返すと、教会を出ていった。 誰もいなくなった教会で、しかし動くモノはあった。 言峰綺礼の遺体、その額の穴から湧き出るように吹き出す物体―――黒い汚泥は、ゆっくりと言峰綺礼の傷口を埋めていった。やがて完全に傷口が塞がった時、今まで死体だった『何か』が立ち上がった。 「突然の危機を想定し、常に警戒を怠らず、引き際も素晴らしい。良いサーヴァントを引き当てたな。バゼット・フラガ・マクレミッツ」 笑う。それは嘲笑か、それとも祝福の笑みか。立ち上がった死人は、澱んだ眼で背後の空間を見た。 「それだけに手に入れられなかったことは惜しい。が、『お前』から見ればどうだ。手こずる相手か」 返ってきた言葉を聞き、言峰は笑いを深めた。 それはおぞましい、全てを冒涜するような笑みだった。 衛宮邸の茶の間。普段は明るい声が響く茶の間で、しかし現在は緊張が支配していた。 黒衣のキャスターは掌を由紀香の頭にかざし、精神を集中させて何かを詠唱している。 それが終わり、琥珀色の双眸を開いたキャスターに、マスターである士郎が期待を込めて口を開いた。 「キャスター、何とかできそうか?」 「……残念だけど、無理ね。これをやったのは現代の魔術師じゃ無い。これは宝具によるものよ」 その言葉に沈黙が陰鬱な物に変わる。キャスターの眼前には犬の耳が生えた由紀香の頭があった。 学校での戦闘後、一行はこれからをどうするべきかで話をした。 ともかくも遠坂凛が説明をする事になり、その場所として衛宮士郎が自分の家である衛宮邸を提供した顛末だ。 遠坂凛の口から出てくる説明に、それを聞く者達は驚く以前に呆然としていた。 魔術。 サーヴァント。 聖杯戦争。 いずれもライトノベルやアニメのような話であり、そしてそれが現実である事は先程の光景で証明されている。おまけに、自分達はそれに無理矢理な形で関わらせられようとしていることを聞かされた。 「大体は分かったが……とにかくもこれをどうにかして貰えないだろうか」 鐘は自分の背中から生えている翼を手に取って引っ張った。 由紀香の耳は帽子を被れば何とかなるだろうが、鐘の翼や楓の手足は誤魔化しようが無い。これでは日常生活を送る事すら出来ないだろう。 遠坂凛と衛宮士郎は、キャスターに解呪を依頼した。 ―――だが、芳しくは無かった。 「分かっていることは、これをしているのは魔術では無く宝具。それも相当に霊格の高い宝具によるもの。本来の担い手ならともかく、私に手が出せるものじゃないわ」 「それなら、遠坂がやったみたいにこの令呪でキャスターをパワーアップしたらどうだ?それなら……」 士郎の縋るような言葉に、キャスターは首を横に振った。 「出力が足りないとかそういう話じゃないの……わかりやすく説明するわ。ねえ、貴女」 話を黙って聞いていた少女にキャスターは話しかける。 「は、はい。何ですか?」 由紀香の視線を真っ直ぐ覗き込むキャスターは、口を開いた。 「何か、おかしな気分はしないかしら。例えば、できるはずの無い事をできたとか、それとも、あるはずの無い記憶を持っているとか」 「あの、そう言えば、何か変なことが。私の名前は三枝由紀香って言うんですけど、他にも名前がある気がするんです。それから、そのもう一つの名前の持ち主のやったことも覚えているような気が……」 「そういえば、アタシも操られてた時に何か夢みたいなもの見てた気がするな」 思い出したように言う楓に、鐘も反応した。 「……お前もか?蒔の字。私も何か戦うような夢を見ていた気もするが」 「ああ、それそれ。伽和羅(かわら)身につけて、剣持って戦うんだよ。自分の事じゃない筈なのに、妙にリアルな夢でさ」 その言葉に、キャスターはふうと溜息をついた。 「……本人の精神と、外部からの精神、つまりはその宝具によるものが、融着している。下手に引き離したら本来の精神にも悪影響が出るかも知れない」 キャスターの分析に、士郎は歯を食いしばって呻いた。 「……そんなことを、三人はされたのかよ」 「今は冷静に解決策を考える時よ。士郎」 怒りを募らせる士郎を宥めるキャスターだが、その表情は固い。楓が慌ててキャスターに詰め寄る。 「ちょ、ちょいまち。じゃ、このままこの姿で生きていけってのか?」 キャスターは無言でおもむろに楓の腹部に手をかざし、口を開いた。 「少なくとも姿はどうにかなると思うけど。貴女達が持っている以上、ある程度は自分で運用できる筈だから」 「ほ、本当?う~ん。戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ……」 由紀香が手を合わせ、拝むように念じた。すると、犬耳が髪の中に吸い込まれるように引っ込み、見えなくなる。 「おお、戻ったぞ。由紀香!」 「えっ……本当!戻ってる!」 鐘の言葉に手鏡を覗き込んだ由紀香は、自分の頭上から犬耳が綺麗に消えていることに歓声を上げた。 「強く念じれば、元に戻るのか」 「よし!メ鐘、アタシらもやってみよーぜ!」 そのまま、二人して手を合わせて念じる。 「「戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ」」 二人で目を固くつぶって、一心不乱に唱えている姿は危ない新興宗教のようでなかなか不気味だったが、効果はあったらしい。 楓の手足は人間のそれに戻り、鐘の背にあった翼もうっすらと消えていった。 「「戻ったー!!」」 「これで少なくとも、外見はどうにかなるという事が分かったわね」 冷静に呟くキャスターの隣に座る士郎は、暫くつぐんでいた口を開いた。 「キャスター、聖杯なら三人の身体を完全に戻すことができるのか?」 士郎の言葉に、今しがた喜び合っていた三人が視線を向けた。 「聖杯が言葉通りの物なら、ね」 事も無げに言うキャスターの言葉で、衛宮士郎は表情を決意に固めた。 「……なら俺が聖杯を手に入れて、三人の身体を元に戻す」 その言葉に、三人は驚愕し、由紀香が真っ先に口を開く。 「待って、衛宮君!聖杯戦争って危険なんでしょ?」 「承知の上だ」 「承知の上だって、お前……分かってんのかよ。バカスパナ!」 「いくらなんでも、無茶だ。考え直せ」 楓に続き、鐘も士郎を止めるが、士郎は首を横に振る。 「もう、俺は巻き込まれているんだ。キャスターのマスターとして。今更引き返す道なんて無い」 士郎は淡々と話を続ける。 「俺は聖杯なんていらない。キャスターが使う分と、三人が元に戻るために使う分さえあればそれでいい。」 「だが!校舎をあんな風にしてしまう連中が相手なんだぞ?」 「なら、尚更だ。サーヴァントに敵うのがサーヴァントだけなら、俺が聖杯を手に入れるしか無い。それしか氷室達の身体を元に戻す方法が無いのなら、それを選ぶのが当然だ」 士郎の言葉に、その場の全員が言葉を失った。 この少年は、知り合いとは言え他人のために戦うと、剣の一振りで鉄筋造りの校舎を焼くような怪物達の闘いに身を投じると言ったのだ。 三人のいずれもがなにか言おうとしてやめた。この少年が戦って、聖杯を手に入れてくれれば自分達は元の日常に帰れるという考えを誰もが抱き、 すぐにそれが少年を死地に追いやることである事に気がつき、そんな考えを抱いた自分が醜くて仕方が無かった。 悲壮な雰囲気が漂った空間は、一人の少女が立ち上がったことで、沈黙が終わる。 「じゃあ、私は帰るけど、衛宮君。話したいことがあるからちょっと来てくれない?」 優等生の皮を脱いだらしい遠坂凛は、こちらの方が素であろう態度で士郎を呼んだ。 「正直なところ、私も聖杯で叶えたい願いは無いのよ」 凛の言葉に、士郎は驚愕した。 「じゃあ、何だってこんな闘いに参加したんだよ。俺みたいに偶然召喚したわけじゃ無いんだろ?」 「まあ、それは置いといて。聖杯を三枝さん達のために使うって本当?」 真剣な顔で聞く凛に、士郎は少したじろぐも、はっきりと答えた。 「ああ、そうしようと思う」 「キャスターはそれでいいの?」 凛の言葉にもキャスターはいつもの感情の起伏に乏しい表情を変えなかった。 「士郎に従うわ」 「そう。それなら約束して。どちらが最後まで残って、聖杯を手にしても、三枝さん達のために使うと」 「本当か!?」 万能の願望機を、自分と同じく他者のために使う人間がいたことに、今度は士郎が驚いた。 「別に深い意味は無いわ。ただ冬木の管理者として、こんな風に一般人を好き勝手されて気に入らないだけ」 「えっ、遠坂ってそんなに偉い人だったのか?」 「衛宮君、どれだけこっち側のものを知らないのよ……」 士郎の無知に、凛は額に指を立てて首を振った。 「とにかく、三枝さん達のことはできるだけ他のマスターにもばれないようにしましょう。宝具を取り出せない以上、先手を打って彼女達を攻撃しようなんて連中がいないとも限らないわ」 「とりあえず、当面は犯人のサーヴァントとマスターの捜索だな。分かった。遠坂ありがとう」 「お礼はいいわ。いずれ戦う相手だもの……ああ、そうそう」 「なんだ?」 「……やっぱりやめといた方がいいわね。それじゃあ、衛宮君、キャスター。また戦う日までね」 そう言うと、遠坂凛は怪訝な顔をした士郎とキャスターを残して去って行った。 家路についた凛は、既に自宅である遠坂邸の正門前に立っていた。 「そりゃそうだ。万が一のことを考えれば、綺礼には連絡しない方がいいわね」 遠坂凛は独り言を呟きながら、先程自分の頭に浮かんだ考えを反芻する。 ―――教会による三人の保護。 一瞬浮かんだ考えは、すぐに否定された。教会は正義の味方では無い。巻き込まれた人間の記憶を消して日常に返すぐらいのことはするだろうが、それは神秘を秘匿するという仕事をしているにすぎない。 おまけに現在の監督役は魔術協会とも繋がっているあの兄弟子だ。 もし協会にでも知られたら、三人の身柄がどうなるかわかったものではない。 宝具を身に宿した一般人だ。最悪、保護という名の実験材料化なんてこともありうる。 衛宮士郎は、家に人を招くことを躊躇しないような殆ど一般人、注意を払っておけば問題は無いだろう。 キャスターにしても、その衛宮士郎に忠実らしい。多分、大丈夫だ。 「問題は、明確なルール違反を犯したサーヴァントとマスターか」 一般人を操って他の陣営を襲わせる。神秘の漏洩にも繋がりかねないそれは、冬木の管理者としても遠坂凛としても許せそうにない。 「これでますます負けられなくなったわね。バーサーカー」 「◆◆―――◆」 凛は霊体化している従者に話しかけた。聞こえてきたのは相変わらずの唸り声だが、同意しているらしい。 「じゃあ、帰りますか。明日からが大変よ」 決意を新たに凛は玄関から自室へと向かった。 それは一見したところでは何の変哲も無いワンボックスカーだった。 誰が知るだろうか。それを根城にしている二人の内の一人が、人間では無いことを。 『……宝石は、まだあるわね。でもバーサーカーの維持にも使うから、今度は少し多めに……』 車内に積み込まれた機材から聞こえるのは、現在遠坂邸にいる少女の声だった。 敵マスターの声はかなり鮮明に聞こえる。技術の進歩を感慨深げに実感していたサーヴァントは、車に近づく気配を察知し、銃を手に取る。 召喚当初に所持していた狙撃銃ではなく、現代で用意したサブマシンガンである。 一定のリズムで叩かれる車のドアに、アサシンは銃口をそのままに、ただ口を開いた。 「バゼットか」 「ええ、戻りましたアサシン」 そのまま車内に入ってきた自分のマスターに、アサシンはようやく銃を下ろした。 「現在、遠坂凛は家の中だ。狙撃地点は幾らか確保しているが、学校があの状態になったのは痛いな」 「行動のパターンが読みにくくなりますからね。それでも、聖杯戦争である以上彼女が外に出ないことはあり得ない。仕留めるにはその時です」 ああ、とアサシンが首肯する。 「バーサーカーは燃料を食い荒らすアメリカ車のようなものだ。ガソリンタンクが空になれば自ずと停車する」 アサシンの中でバーサーカー陣営の攻略法は既に出来上がっているらしい。 敵の工房がある筈の遠坂邸の情報を得るために盗聴器という科学の産物を使う提案をしたのはアサシンだ。 魔術師らしく、科学との縁が薄いバゼットにとっては不安が残る提案だったが、それの有効性は目を見張る物がある。 魔術的な要塞は、英霊の気配遮断と魔力を欠片も有しない機械装置には無力だった。 遠坂を初めとする陣営の情報を断片的にでも手に入れることができるアドバンテージは大きい。 車内に設置した機械を操作しているアサシンを見ながらバゼットは召喚直後の彼の台詞を思い出していた。 『俺は弱い英霊だ。多分殴り合いならマスターの方に分がある。だが、負ける気は無い。協力してくれ』 アサシンは確かに弱い英雄だ。パラメーターの殆どがEランクという脆弱さは、この戦争に参加したサーヴァント中最弱だろう。 それでもバゼットはアサシンを恐ろしい英霊だと思う。彼は弱いが、それは決して弱点になり得ない。文明の利器を惜しげも無く使い、その力を利用し、更に発揮する。 自分の弱さを知っているという事は、自分の持つ機能と性能を理解しているということだ。 執行者として数多の魔術師を狩ってきたバゼットにとって、もし相手取るならアサシンのような輩がもっともやりにくい。反面、味方にできればこれほど頼もしい相手もいなかった。 バゼットはアサシンについて不満は何も無かった。ただ問題があるとすれば。 「ほら、各種機器のマニュアルだ。読んで覚えろ」 アサシンが手渡した分厚い紙の束に、バゼットは僅かに身じろぎした。 「こ、これら全てを覚えるのですか……」 はっきり言って、バゼットは細かい操作が苦手だ。当然機械に関しても同じ事が言える。 「アサシン。魔術師という物は機械の扱いが不慣れでして……」 「じゃあ、練習して苦手を克服すべきだろう。俺にしても機械の扱いは専門家というわけでは無いんだ。バゼットにもできるようになって貰わなければ困る」 一分の隙も無い正論に、バゼットはなすすべも無くマニュアルを受け取った。 「戦いは情報の有無で幾らでもひっくり返る。そのあともまだ勉強して貰うことはあるからな」 聖杯戦争が終わるまでにどれだけの学習をさせられるのか、想像したバゼットは溜息をついた。 夜の繁華街は、会社帰りのサラリーマンや水商売に関わる人間で賑わっていた。 その中で、変わった装丁の本を持つ少年が虚空に話しかける。 「ライダー、これで冬木の大体の場所は回った。何か質問はあるかよ?」 『ない。しいて言えば、儂の最終宝具が使える場所が少ないな。こうも建物が密集していては』 返ってきた言葉に、慎二は再び問いを口にした。 「そんなに強力な宝具なのか?」 『うむ。もっとも、それを一度使えばしばらくは大幅に弱体化するという欠点もある』 「そうか、対策を考えておかないとな」 間桐慎二に魔術回路は無く、よってサーヴァントに供給できる魔力も無い。 しかし、本人が保有する魔力炉心と宝具によって魔力は普通に戦う分には全く困ることは無い。 最終宝具も多少無理をすれば放つことができるというのが本人の弁だ。 「勝てる。勝てるぞ。ライダー、そして僕とお前の願いを叶えるんだ」 『勝てるのでは無い、勝つのだ。儂は負けぬ』 一種傲岸とも言える強気な答えに、慎二は召喚時の光景を思い出していた。 『関羽雲長、騎乗兵の位を得て顕現したり―――喜べ。貴様らの勝利よ』 蟲倉の蟲を全て吹き飛ばしそうな豪風と共に出現したサーヴァントは、不遜な態度で周囲を見回した。 その眼光が、肩で息をしている召喚した本人に向かう。 「お前が儂を呼んだのか?」 「待て!よ、呼んだのはそいつだけど、マスターは僕だ」 多少震え声で話す慎二に、ライダーは一瞥すると、口を開いた。 「よろしい。この戦いに参加するには、かりそめとは言えマスターは必要。お前をマスターと認めてやる」 思いっきり下に見られながらも、こうして間桐慎二の聖杯戦争はスタートした。 「そこでだ、お前の宝具は……」 その時、肩同士が触れ合う衝撃を感じる。 「何だ。テメエ?」 話に集中する内に、人にぶつかってしまったらしい。振り返ると、明らかにチンピラ然とした男が立っていた。 「何独り言ブツブツ言ってんだ。電波かアァ?」 慎二の態度が気にくわなかったのか、チンピラはますます突っかかってきた。 チッと舌打ちして、小声で背後のサーヴァントに声をかける。 「ライダー、お前の戦闘力を見るぞ。こいつを半殺しにしろ」 虚空からの声は、慎二にのみ小声で伝えた。 『嫌じゃ』 「ハ?」 サーヴァントの声色は先程までと少しも変わらず、ハッキリと拒絶した。 「何言ってるんだよ。ご主人様のピンチだぞ!?」 『鶏を捌くに牛刀は用いぬ。この程度の輩に力を奮うなどしたくない』 なおも言い募ろうとした慎二だったが、側頭部への火花が出るような衝撃に受身を取る暇も無く昏倒した。 「バーカ!気持ち悪いんだよ。間抜け!」 大笑するチンピラは、倒れた慎二を何度も踏みつけた。周囲の人間も巻き込まれることを恐れてか、手を出そうとはしない。チンピラはそのまま慎二の懐に手を入れ、財布を抜き取る。手際からして慣れているのだろう。財布から一万円札を全て抜き取ると、そのまま去って行った。 「何で助けないんだ!この大馬鹿野郎!!」 ようやく立ち上がった慎二はビルの間にある路地裏に入り込むと、思い切りライダーを怒鳴りつけた。 実体化したライダーは、涼しい顔で慎二の怒鳴り声を聞いている。慎二が怒鳴り疲れて肩で息をすると、口を開いた。 「馬鹿たれ、あの程度の輩を退けられぬようでは仮とは言え、儂のマスターたる資格など無い」 「な、なんだとお……」 顔を紅潮させる慎二は、その時手に持っている物に気がついた。 サーヴァントを隷従させる偽臣の書、これは無理な命令で無い限り、サーヴァントを御することができる物。 歪んだ笑みを浮かべて、慎二がそれを手に取ろうとしたとき、ライダーの低い声が響いた。 「それで使える命令はせいぜい一回。こんなくだらん事に使う気か?」 その言葉に、一気に頭が冷える。確かにそうだ。こんなことに使うべきでは無い。 だが、殴られた痛みと受けた屈辱は自身を苛む一方だ。 「畜生……」 その時、壁に立て掛けてある『ある物』に気がついた。 その男は、街の鼻つまみ者だった。 自分より弱い人間をいたぶって、自分が強いと錯覚する感覚を愛していた。 必然的に中学生の時から恐喝で金を稼ぎ、一時の遊興の代価に当てた。 文字通りの街のダニのような人間だが、かと言ってヤクザになろうとも思わず、このまま一生を人から金銭を脅して手に入れて中途半端に生活できると本気で思っていた。 先程の少年からくすねた戦利品を数えているとき、後頭部に痛撃が走るまでは。 余りの痛みに意識を手放しそうになるが、後ろを振り返ったときに顔面を靴のような物で蹴られて、意識は無理矢理繋ぎ止められた。 「よくもまあ、やってくれたね。まずはさっき僕からくすねた金を返して貰おうか」 首筋に突き出された鉄パイプを前に、その男は今まで自分が傷つけた人々がしてきたように、地面に這いつくばって、こくこくと頷いた。 「ようやった。やられればやりかえせばよいのだ」 相変わらず尊大な態度でライダーは慎二を(一応は)褒めた。 「やかましい!大体僕に何かあったらどうするつもりだってんだよ!」 「その時はその時よ。どのみちあの程度できなければ、お前は死ぬだけだ」 あっさりと自分が死ぬと断じたサーヴァントは、もう一度霊体化する。 『さて、屋敷に帰って鋭気を養うとするか。なあ、マスター』 「帰るのかよ」 『儂を呼んだ場所で休めば、儂の魔力も戻りやすい』 「……わかったよ。その代わり今後は僕の指示に従えよ」 『だが断る。悪手を打とうとすれば、当然儂は拒否するぞ』 「そこは、承諾するところだろうが!!」 傍目から見れば、慎二一人でギャーギャーと騒いでいるようにしか見えない主従は、そのまま夜の街を家路についた。 第三話まで書くと、やっぱり自分が長編書いてるんだと実感が湧いてきます。 何とか書き上げましたが、本音を言えばひむてんで出てくるようなネタギャグの数々を書きたいです。 以下、没小ネタ ~凛が三人娘に聖杯戦争の概要を説明したあと~ 「―――以上が聖杯戦争の概要よ」 誰もが黙っている中で、一人が口を開いた。 「あのさ、ちょっといいか?」 蒔寺楓がしきりにキャスターの方を向きながら、凛に尋ねた。 「何かしら。蒔寺さん」 「遠坂がさっき言ってた英霊だけどさ。いや、分かってるぞ。霊なんて全部プラズマで説明できる嘘っぱちだし、アタシは平気だし、大丈夫だし、だけど、本当に、本当に、本当にキャスターさんって……ゆ・う・れ・い??」 楓の縋るような問いかけに、キャスターはきょとんとしながら答えた。 「?ええ、そうよ。私は一度死んだことがあるもの」 ―――時が止まった。 「勝利への脱出!」 「蒔の字、人の家の障子を突き破るんじゃない!」 蒔寺楓、心霊耐性E(超ニガテ) 実際に書いてみたかったのですが、話の雰囲気上どうしても割愛せざるを得ませんでした。 今後はギャグも入れてみたいなあと思います。それでは皆様ご機嫌よう。
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/1201.html
【元ネタ】 【CLASS】ライダー 【マスター】??? 【真名】坂本龍馬 【性別】男性 【身長・体重】178cm・72kg 【属性】中立・中庸 【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運A- 宝具EX 【クラス別スキル】 騎乗:A+ 対魔力:B 【固有スキル】 船中八策:A 困難な状況においてもよりよい未来への道標を示すスキル。史実では坂本龍馬が慶応3年(1867年)に上洛中の洋上で起草した新国家体制の基本方針とされるものの俗称。「両院制」や「憲法の制定」など、近代国家の磯となる事柄が多く記されている。 維新の英雄:A 幕末という動乱の時代を駆け抜け、明治維新という史上稀に見る一大改革に貢献した龍馬に与えられた特別なスキル。 【宝具】 『天駆ける竜が如く(あまかけるりゅうがごとく)』 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:500人 竜種一歩手前のまつろわぬなにか。通常時は人間の姿だが 真名開放により巨大な竜に変貌する宝具。 人型形態でもかなりの神秘と怪力を有し、サーヴァントに匹敵する戦闘力を有する。 開放形態では神代の神秘を纏い圧倒的な力を誇るが、真名開放は 一度の召喚に対して一度しか行えず、発動後は世界に対する不完全さゆえに その存在を維持できずに消滅する。 【元ネタ】 【CLASS】ライダー 【マスター】 【真名】坂本龍馬 【性別】男性 【身長・体重】178cm・72kg 【属性】中立・中庸 【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運A- 宝具EX 【クラス別スキル】 騎乗:A+ 対魔力:B 【固有スキル】 カリスマ:C 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。国家運営は出来ないが、志をともにする仲間とは死を厭わない強固な繋がりを持つ。 龍馬のそれは時に対立するイデオロギーを持つ集団同士に手を取り合わせるほどに強力なもの。 船中八策:A 困難な状況においてもよりよい未来への道標を示すスキル。史実では坂本龍馬が慶応3年(1867年)に上洛中の洋上で起草した新国家体制の基本方針とされるものの俗称。「両院制」や「憲法の制定」など、近代国家の磯となる事柄が多く記されている。 維新の英雄:A 幕末という動乱の時代を駆け抜け、明治維新という史上稀に見る一大改革に貢献した龍馬に与えられた特別なスキル。 【宝具】 『天駆ける竜が如く(あまかけるりゅうがごとく)』 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:500人 竜種一歩手前のまつろわぬなにか。通常時は人間の姿だが 真名開放により巨大な竜に変貌する宝具。 人型形態でもかなりの神秘と怪力を有し、サーヴァントに匹敵する戦闘力を有する。 開放形態では神代の神秘を纏い圧倒的な力を誇るが、真名開放は 一度の召喚に対して一度しか行えず、発動後は世界に対する不完全さゆえに その存在を維持できずに消滅する。 【元ネタ】史実 【CLASS】ランサー 【マスター】 【真名】坂本龍馬 【性別】男性 【身長・体重】178cm・72kg 【属性】中立・中庸 【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷B+ 魔力C 幸運A- 宝具EX 【クラス別スキル】 対魔力:C+ 騎乗:EX 変化(大蛇):A 【固有スキル】 維新の龍:A 人の身で龍と呼ばれた男。時代という名の竜に乗り幕末の世を、ただ人のために駆け抜けたその儚くも誇り高き生き様は、まさに天駆ける竜が如くであった。 高千穂の白き大蛇:A- 竜になれなかった大蛇。かつて黒き異形としてさげすまれた大蛇は竜へならんと天を目指したが、果たして大蛇は竜となる事は叶わなかった。 天逆鉾(双):B 天より逆落ちた光の鉾。黒き異形を封じるために天と地を縫い合わせた天の神の鉾。 本来は一振りの鉾であるが、かの者と大蛇が振るうとき、双鉾として二振りの形態を取る。 天より逆落ちた光の鉾は呪いでもあり、 祝福でもあったのだ。 【宝具】 『君よ、綿津見の原を征け(りゅうよ、わだつみのはらをゆけ。)』 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:2~70 最大捕捉:700人 黒き大蛇に龍馬が天へと掲げた天逆鉾を捧げる事により脱皮羽化し、神々しい竜と見まごう美しき白き大蛇へと変鱗する。 白く輝く神代の神秘をその身に纏い、強大な力を振るう高千穂の白き大蛇。 生半可な攻撃では傷つかない強固な物理障壁を展開し、次元違いの戦闘能力を有するその姿は新しき時代の神の姿なのかもしれない。 彼女は竜となり空を翔ける事ではなく、大蛇としてかの者とこの海を駆ける事を選んだのだ。 【解説】
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/662.html
──────────────────────Another Servant 12日目 開かれる嘆きの蓋、そして……───── ──────Fighters Side────── 「………本日の分はこれでよしっと」 そうして刻士は軽快に走らせていた筆を机に置いた。 間桐とアーチャーとの戦いに勝利を収め、キーアイテムである聖杯の器までもを手中に収めた彼らはその日の行動を終了した。 刻士は紙上のインクが乾くまでの待ち時間を利用して開幕から今日までの十数日間を振り返る。 彼が残した聖杯戦争の記録はもう一ヶ月分位は溜まっただろうか。 自分が見聞きしてきた第二次聖杯戦争の記録を日誌に残す。 日記に記載した内容はそれこそ重要な事から些事まで何でも良いといった具合に多種多様な事柄が書き込まれていた。 エクストラクラスについて。効率の良い睡眠が取れる魔薬の調合法。聖杯戦争における序盤、中盤、終盤の戦略の変化について。 各クラスの持つ特性の危険度。アサシンクラスに注意。特にバーサーカークラスは要注意。 知名度の低い英雄が大英雄をうち負かしたことについて。宝具について(重要) 聖杯戦争で真名を秘匿する事の重大性。小聖杯について(重要)。なるべく栄養価の高い食事を取ること。闘王は紅茶党。 前回の反省を生かし第二次から聖杯戦争システムに組み込まれた三つの令呪について。戦局を一変させる令呪の効力と絶大性。 マスターの知恵と技量次第ではサーヴァントを媒介に不死性を得ることも理論上可能、実に興味深い。などなど。 果たしてそれは何の為の記録だろう。 この大儀式が見事成功し己が根源に到達した時に、こちらの世界に自分の存在の痕跡を残したいが為か? それとも万が一に敗北した際に次代の遠坂の子孫へ繋ぐ保険の為? その真意は刻士本人にもよくわからない。 ただ冬木に聖杯戦争の予兆が現れたと同時になんとなしに遺書などを準備していた辺り彼の死地へ挑む覚悟の程が窺える。 記憶を反芻していると深夜の死闘の際、打倒遠坂の執念に燃える間桐がつい洩らしてしまった言葉を思い出す。 間桐燕二が体現していた神秘は探求者として非常に興味をそそられるものだった。 「……しかし昨夜の間桐の不死性は興味深かったな。アーチャーが死なない限り自分も死なない、か。 あれは間桐本人の業ではないな。明らかに彼の能力を大幅に超えた奇跡。となればやはり臓硯翁の援助か? ふむ流石は御三家の一角マキリを統率する魔道翁の秘術。まだ不完全な形とは言え試作としては申し分ない出来に仕上げるとは。 突き詰めていけばマスターとサーヴァントの命の共有を完全な形で実現できるやもしれないな。 いや…あるいはそういう特殊能力を持つ英霊ならより確かな形として命の共有を実現できるか? そういった能力のサーヴァントと契約したマスターは相当な有利に立てる────うん悪くないね」 魔術師の口元から誰に聞かせる訳でもない独り言が自然と漏れる。 が、刻士は自分の口にしている台詞の意味に気付き自らを諌めた。 「────フ、馬鹿馬鹿しい。 私とした事が無関係な話に熱を上げ過ぎたか。ファイター以上のサーヴァントなどまず考えられないだろうに」 刻士は昨夜のファイターのとった行動を思い返す。 己が窮地であろうと勝手な真似をしない英霊。あれほどマスターの都合を最優先に考えた忠実なサーヴァントなのだ。 その上で実力までもが申し分ないときているのにたかが不死性を与える程度の能力に現《うつつ》を抜かすとはなんと愚かしい。 自分の未熟さを苦笑し、遠坂は一度休眠を取って頭脳をスッキリさせることにした。 無論、いつもの試薬を飲むのも忘れずに。 ◇ ◇ 太陽が昇り、また一日が始まる。 僅かな睡眠時間ながらも何の問題もない目覚め。 刻士はいつものように目覚めの紅茶を朝日の光を肴にして優雅に愉しむと、次に栄養補給の為の朝食を済ませた。 そしてその後はこれまたいつものようにファイターと一時のティータイムと洒落込むのだ。 かくいうファイターもファイターで遠坂とのティータイムは楽しみなイベントになっているらしい。 紅の雫の豊かな香りが王の鼻孔と口内に広がる度に僅かに頬を緩ませて、うむ、今日も素晴らしい味わいだ、と上機嫌に呟いていた。 王や戦士としての風格こそ十分過ぎる程にあるファイターだが、元来彼の気性を想えばこの姿の方が素に近いのであろう。 そうして、ささやかで穏やかな一時を愉しんだ後、彼らの表情がキリッとしたものに切り替わった。 心の休息はこれでおしまい。ここからは戦場に立つ戦士が二人現われるのみだ。 「さてと、今日も日中は虐殺者の手掛かりを探しにいこうと思う。 聖杯戦争の期限を考えればそろそろのんびりはしていられないが土地管理者としての責務は絶対に果たさねばならない。 夜は敵対者の排除の為に使おうと考えているが何か問題や意見はあるかいファイター?」 「どちらもあらずだ。遠坂殿の采配に従おう」 「よろしい、では出発だ」 ◇ ◇ 町へ出たはいいがやることは昨日辺りと大して変化はない。 ただ情報を収集し、異変を探索するだけだ。 勿論彼らとて何らかの手掛かりが見つかるなんて楽観もしていない。 この殺人鬼《かげ》はそう簡単に尻尾を掴ませるような迂闊な相手ではない。 やはりこれと言った有力な手掛かりは入手出来ぬまま、多くはないがまた何人かの犠牲者が出たという情報を手にしただけだった。 そして、遠坂たちは半ば義務感に駆られる形で町中の徘徊を続けていると、 ………予想外の人物と鉢合わせしてしまった。 「───…な」 「え、ちょ、ウソ──ッ?!!」 驚きの小さな悲鳴は眼鏡をかけた黒髪の少女から。余程想定外だったのか彼女の丸い瞳が驚きでこれでもかと見開かれている。 まあ無理もない、これが正常な神経をしているマスターの反応だ。 通常マスター同士が戦場で鉢合わせればつまり遭遇戦に発展するという事なのだから。 「敵のマスターと日中ばったり鉢合わせるって普通有り得る!? 何で教えてくれなかったのよセイバー!?」 咄嗟に身構えて非難を飛ばす少女の隣には両手一杯に串団子を持った平服姿の金髪青年が見当外れの方向に驚いていた。 「うおっファイターのマスターか、ってことはファイターもいるな…。 ちっ、しまったぜ……オレとしたことが団子食うのに気を取られて注意散漫だった、すまんアヤカ!」 「こ……この胸張って謝らないでよバカチン! だからお団子は三つまでって言ったんじゃないセイバーの馬鹿馬鹿! 三十個も買ってお団子食べるのに夢中で敵の存在に気づかないってアンタ何考えてるのよ!」 「お団子のことだ! でもこれすげえウマいぞ?」 「──ッ! もういい! アンタはもう喋るな! そのまま死ぬまでお団子でも食べてればいいわ食いしん坊!」 ギャアギャアと騒がしいコンビに、ファイターは仲か良いなと苦笑する。 だが、緊迫する少女とは対照的に最初っからこんな日中のしかも人目のある場所で戦う気など無い遠坂は少女の姿を見て、 「………ハァ、しかし相変わらずはしたない格好だね君は。なんだねその腰のヒラヒラとした短い布切れは? 娼婦ではあるまいに娘子がそんなに脚を露出させるとは嘆かわしい。もう少し慎みを持ちたまえ」 あろうことか彼女の格好に呆れの文句をつけていた。 「しょ、娼婦…ですって……!? な、なによ、わたしが何着たってわたしの勝手でしょう!? これはスカートっていう今西洋で流行してる服なんだから! そういう自分だってなにさその格好! 同じ西洋かぶれの癖に! シャーでロックなホームズ名探偵のつもり? だったらもう少し茶系にしなさい。その毒々しい赤色は趣味が悪いわ!」 「赤は私のイメージカラーなので放っておいて貰いたい。しかし君のそれは海外から輸入した品なのかね? 私はよく渡欧することもあって西洋の事情には詳しいがそのような短い穿き物が流行しているなど聞いたことがないぞ? その衣服はどちらかと言えば西洋よりも地中海周辺や中東辺りの踊り子らが来たりする衣装に似ている」 「え、うそ? それ本当…?」 「現在の日本もそうだが、西洋文化圏は基本的にみだりに肌の露出はしない風習だ。 君の格好で向こうへ渡れば娼婦か最悪淫魔扱いされて魔女狩りに遭ってもおかしくはないぞ?」 「……………………」 明かされた事実に激しい衝撃を受け黙り込む綾香。 綾香が西洋の流行だと勘違いし今日まで穿いていた洋服は彼女の祖父が何かの手違いで日本に輸入してしまった中東の踊り子の衣装だったのだが、しかし哀しいかな少女にそれを知る術はないのであった。 「その姿では誰彼構わず男子を誑かしているように見られる。 格好を除けば君の品位は決して低くないんだ。ならばもっと品位に見合った淑女らしい出で立ちでいるべきではないかな? いいや、むしろそうした方が君は遥かに映えると思うが」 「え…、そ、そう、なのかな?」 まだ幼さの残る少女に実に大人の紳士らしい忠告をしてくる刻士。 そして遠坂のお世辞ではない本心の言葉に満更でもない様子の綾香。 しかしそんな紳士的な忠告に拳を振り上げ断固として噛み付いた男がいた。 「オイ、ぶざけんなよファイターのマスター! あんたは黙っててくれ!! アヤカの美脚が見れるのはオレのちょっとした自分へのご褒美なんだから余計なこと言うなよなッ! 馬鹿かおまえは!? 直視してると鼻血出そうなくらいにイイ感じじゃん! 貴様の余計な一言でアヤカの気が変わったらどうすんだこのアホッ! たわけ! バカヤロウ!」 「…………………」 「……………わたしコレ穿くの今日限りでやめようかな……」 「しかし意外ね。敵マスターとばったり遭遇しておきながら何も仕掛けないんだ?」 「なにが意外なものか。私はこの地の管理者なのだぞ。 白昼堂々と騒ぎを起こすなど自分で自分の首を絞めるような愚行をどうしてする?」 「って主人の方は言ってるけど、ファイターはそれでいいのかよ? この聖杯戦争じゃあ次はいつになるか…いや次があるかもわからないぜ? ランサーの例もあるしな」 好敵手と尋常な決着をつけたいらしいセイバーがファイターに話を振る。 「すまぬなセイバー。マスターが戦わないと言う以上は私も剣を抜くつもりはない」 が、闘士の返事は予想通りのものだった。 それを聞いた騎士は口を窄めて面白くないと再び団子に齧りつく。 「素直に教えてくれるとは思ってないけど、何をしているのか聞いてもいいかしら?」 綾香の探るような視線に気を悪くすることもなく、意外にも遠坂は素直に口を割った。 「ああ構わない。折角の機会だこちらも訊きたいことがあるからね。 私は昨日にこの町で起きた大量虐殺犯を探している。数十人規模の人間が一夜で惨殺されたのご存知かな?」 刻士の問いに眼鏡の少女と金髪の青年は驚いた風な素振りを見せ首を横に降った。 「とにかくそういう事件がまたこの冬木の町で起こってしまったのだ。 しかも今度はこれだけ派手にやっておきながら手掛かりが殆どなく、不審人物の目撃者も不自然なまでにない。そして──」 刻士は綾香たちに自分が得たこの件の情報を全て開示していく。 彼女たちもまた遠坂の話に真剣な表情で聞き入っていた。 「────と言うのが話の顛末だ。 その上でこちらも訊ねたいのだが君らは何か知らないか? もし君達が犯人であるのならそうだと言ってくれればいい」 相手の不躾な物言いに短気なセイバーが喰って掛かりそうになるのを綾香が宥めると、何も知らないと遠坂に伝えた。 「残念だけど有益な情報は持ってないわ。昨日の深夜過ぎならわたしたちは町にいなかった。 その日は深夜になる前に自陣に戻ったくらいだし。だから犯人でもないし、そんな事件があったとも知らなかった。 まあそれを信じるかどうかは貴方の自由だけど、一応潔白だと言っておくわ」 「やはりね。私も君達が犯人とは思ってなかったからな。 そもそも君らが現場にあれだけの痕跡を残しておきながら全く尻尾を掴ませない、というのは考え難い」 刻士は彼女たちの話を予想通りといった感じで大した落胆もせず軽く受け流した。 「気のせいかもしんねーけど、なんか少しバカにされてる気がするぜ……」 「やはりって、目星なんかはついてるの?」 「実行しそうな輩なら、な。雨生が筆頭候補なのだがいかんせん証拠がない」 遠坂の口から魂喰い虐殺の前歴を持つ雨生虎之介の名が出たが、二人はその推測が的外れであるのを誰よりも知っていた。 「いえそれは絶対に有り得ないわ、ファイターのマスター」 「ああ、ねえな。少なくともソイツらが犯人だってのは絶対にないぜ」 少女らの迷いのない断言に刻士もファイターも眉を顰めた。 彼女達は自分らの知らない何かを知っているような口振りである。 「絶対にない、か。理由をお聞かせ願えるかなお嬢さん方?」 「教えてあげても構わないけど、それならこちらの条件も一つだけ飲んで貰いたいわね」 すると少女の口から"条件"というあまり喜ばしくない単語が飛び出してきた。 成程まだ未熟でも聖杯を狙うに値するマスターか、と刻士は駆け引きの気配に内心で舌打ちをする。 「条件? フッ、他者の足下を見るとは浅ましい限りだ。私の話を聞いて君達が殺人鬼に抱いた義憤は偽りなのかね?」 「勘違いしないで頂戴。何も貴方に不利になるような条件を突きつけるつもりはないわ。 折角こうして戦わないでいられる状況下で会話しているんだもの。 わたしは貴方に同盟を結んで欲しいだけよ。対ライダーと戦いに備えた同盟をね」 しかし彼女の言う条件とは彼らの予想外のものであった。警戒心が薄れ代わりに興味が湧いてくる。 「私と対ライダー同盟を結びたい、と? ふむ、話が見えてこないね。同盟を結べば君らの持つ情報を開示すると?」 「約束するわ。まあとは言っても話を聞けば嫌でも同盟を結びたくなるとは思うけど。 人間タダより何かおまけが付属してた方がお買い得だと感じるでしょう?」 そうして可憐な花のように微笑む綾香。 それが決め手となった。刻士もファイターも完全に少女の話に興味をそそられていた。 思い返せば自分達はまだライダーの情報を殆ど保有していない。少女の話は乗るだけでも得るものがある。 「わかった聞くだけ聞こう。どういう意図で私らと対ライダー同盟を結びたいのかな?」 柔らかな物腰の遠坂に促され喋り始める綾香。言葉は簡潔に要点を押さえて過不足なく説明した。 自分とライダーとの関係。ライダーの能力、宝具、秘密について。宝具の真名を幾度も解放するその異常な特異性。 ライダーの宝具はあまりに凶悪で危険この上ない事を強調し改めて同盟を組みたい旨を伝えた。 「だけど一つだけ先に断っておくわ。 同盟を結んだからと言って別に貴方たちはわたしたちと協力してライダーを倒さなくても構わない。 わたしはただせめてライダーとの決戦を他者に邪魔して欲しくないの。言わばこれはその為だけの同盟」 ───何人たりとも祖父の敵討ちに余計な横槍を入れて欲しくない。 そう語る彼女の表情は疑いの余地も挟めない真実の匂いしか嗅ぎ取れない。騙し討ちや策略の気配は微塵も感じ取れなかった。 刻士は結論を出す前に一度念話でファイターとも意見交換をしてから改めて大きく頷いた。 「いいだろう、君と同盟を結ぶのを全面的に承諾しよう。 君の話を聞く限りではこの同盟は確かに私にも多大なメリットがあるようだ。 しかし宝具を乱発出来るサーヴァントか。一体どんなカラクリが…どうやって魔力を工面している……?」 「オレもこの眼で見てたんだからウソじゃねーぞファイターのマスター。 アイツそれでアーチャーの要塞の護壁をガンガン削りまくって最後なんかもうスンゲェ大爆発で城壁を全部根刮ぎ消し飛ばしやがったんだから! まったく太陽王だかなんだか知らないがムカつく奴だぜホントっ! 無駄に偉そうだしアヤカの爺ちゃん殺すし!」 まだ微かに疑問の色が拔けない遠坂の口振りにセイバーが口を挟む。 しかし刻士はセイバーの話そのものよりも彼が何気なく口にしたある名称により敏感に反応した。 「なに太陽王だと?! ちょっと待て、するとライダーの正体はラメセス二世なのか!?」 「さあ? でも少なくともオレはそうだと思うぜ? ま確定はしてないけどさー。けど昨日アイツ否定しなかったよな」 すると今の会話を聞いていたファイターも何か思う所があったのだろう。 霊体化しているファイターが何やら遠坂に喋りかけているのが彼らの様子から窺えた。 「ん? なんだファイター? なに? ………………ああではあの時発見し破壊した石像はライダーの宝具だったわけか! 成程確かにそうだな。ラメセス大王の背景を考えれば建造物系の宝具はとても自然だ。 とすれば問題は石像の能力か………失敗したなまず詳しく調べてから破壊するべきだったらしい。 てっきりマスターが施した仕掛けとばかり思い込んでいた」 そう言いながら少女と騎士をそっちのけで反省会を始める遠坂たち。 綾香は彼らの反省会が長引く前に話を本筋に戻した。 「えーとお互いライダーについての話はまだまだあるでしょうけど、とりあえず同盟成立ってことでいいのね?」 「……ん? ああ勿論だとも。むしろこちらから申し出たいくらいだ。 もしライダーがかの太陽王であるのなら単独で挑むにはファイターを以てしても相当のリスクを負うことになる。 ライダーが宝具攻撃を乱発出来ると言うのなら尚更だ。君らと協力できるのは私にとっては有り難い提案だよ。 戦場でライダーと遭遇した場合、もし君らが我々の近くにいたのなら共闘すると当代遠坂家当主の誇りに賭けて誓約しよう」 刻士の宣誓が終わると、どちらともなく相手へ向かって手を差し伸ばす。 ある種の通過儀礼として二人握手を交わしそれを同盟成立の印とした。 「これで同盟成立っと。じゃあこちらも約束通り話の続きをしないとね。 雨生たちが絶対に犯人ではないっていうのはね、一昨日の夜にわたしたちがその雨生とバーサーカーを倒したからよ。 貴方の話を聞く限りじゃ時間的に考えて虐殺が起きたのはあいつらが死んだ後よ。 肉体を持たない幽霊じゃ生身の人間は殺害できない、そうでしょ?」 少女の話はよほど驚く内容だったのか、遠坂は両眼を見開いて馬鹿な…と唖然としていた。 「バーサーカーを倒した……だって? まさか…あの男殺の魔剣使いをか? 信じられんファイターですらあの魔剣の前には完敗だったというのに。………相当緻密な作戦でも練ったのかい?」 「バカ言え実力だ実力! 失礼な奴だなオマエ! オレらが本気を出せばざっとこんなもんだいフフフン!」 自慢気に鼻を高くするセイバー。 一方勝利こそしたが同時に殺されかけた事情を知っている綾香は敢えて何も言わないでおいた。 「とにかく、わたしたちは魔力切れによる雨生の自滅とバーサーカーの消滅を確かに見届けた。 だから彼らが虐殺犯だってのは無理があるわ。ここに居るわたしたちを除外すると後はアーチャーとライダー……」 「いやそのアーチャーと間桐は我々が昨夜倒した。しかし殺人鬼は彼らでもないと思う。 間桐燕二は決して莫迦ではない隠蔽は完璧にする筈だ。キャスターの可能性は?」 「それもねえと思う。オレたちも昨日ライダーとやり合ったんだけどさ、ヤツはキャスターはもう始末したとか言ってたぞ? それがホントならキャスターって大量虐殺が起きる前に脱落してたんじゃないか?」 出てくる名前に次々と否定の言葉が重なっていく。 影の如き虐殺者の正体を彼らは未だ掴めないでいた──────。 ──────Casters Side────── 水が腐敗したような、鼻につく嫌な空気に包まれた暗い洋館。 そこがキャスターの新たな契約者《マスター》の拠点であった。 朝日が昇ってさえなお薄暗い寝室にいるのは間桐燕二とキャスターの二人だけ。 戦いに敗れアーチャーを失い森を敗走していた折に出会った新しい主人は疲れ果てた様子で深い眠りに落ちていた。 しかしその寝顔に苦痛の色は一切ない。 というよりも燕二が数時間前に遠坂との魔術戦で負った激しい火傷も嘘だったように無い。 それもこれも治癒術の名手であるキャスターが彼の火傷を跡形もなく綺麗に癒したおかげだった。 「上手くいって本当によかった……卜占の結果を信じてみっともなくもしがみつき続けた甲斐があった」 新しいマスターの寝顔を見下ろしながら吐き出された吐息は安堵感と達成感で一杯だった。 かなり際どい賭けではあったが、とりあえず自分が賭けに勝利したことを素直に喜ぶことにした。 ────キャスターの予定が完璧に狂ってしまったのは、三日前に起きたあのライダーの工房襲撃からであった。 そして襲撃の結果、彼は最初のマスターであったラウネス・ソフィアリを失った。 しかも皮肉な事に、用心としてラウネスの頭部に刺しておいた保険がキャスターの命を救い、変わりにラウネスを殺した。 彼はそんなつもりで他者の肉体を一時的に掌握出来る魔術針をマスターに仕掛けたのではない。 魔針はあくまで令呪封じの保険。 既に見切りをつけていたソフィアリと穏便に契約を切らせる為に仕込んだものにすぎない。 だが確固たる事実として、その保険は意図せぬ方向で使われキャスターの命を長らえさせた。 ───あの衝突の刹那。 ライダーの宝具がその真価を発揮し工房全てを白と熱で染め上げた瞬間、キャスターはソフィアリの令呪を外部操作で使用した。 発動させた命令は『その場から瞬間離脱しろ』。 つまりテレポートによる工房からの緊急脱出である。 何も知らぬソフィアリからしてみれば一体自分の身に何が起こったのかさっぱり理解出来なかったであろう。 考えてもいない命令を突然口が勝手に叫ぶのだ。 しかもそれが令呪による命令であれば尚更混乱の極みだったに違いない。 令呪の一画がワケも分からず消失してしまった時のソフィアリの呆然とした表情など想像も容易だ。 そうして結局、物理的に距離が遠退いたせいで救援も間に合わず……、 彼の主人はそのすぐ後に殺されてしまいキャスターは契約の切れたはぐれサーヴァントとなった。 しかし問題はここからである。 独りになってから今日まで三日。 たったの三日間とは言えど、それでも青年にとってはまるで煉獄を歩くかのような苦しき日々だった。 そもそもサーヴァントと契約し十分な魔力を供給出来るだけの高い素質を持つ人間などそうそういるものではない。 ならばそんな状況下でサーヴァントが存命するには人間を喰らい魔力を補給する他ない。 だがしかし、キャスターは決して魂喰いを良しとしなかった。 自分の仕掛けた種が結果としてマスターを死なせてしまったことに対する厳罰の意味もある。 が、それ以上にクリスチャン・ローゼンクロイツという英雄は弱き者や貧しき者を救った聖者なのだ。 彼の人間に対する愛情は非常に深く、いくら人類の未来を左右する悲願があろうとも己の存命の為に誰かを殺すなど出来なかった。 そこでキャスターはある一つの賭けをする。 彼が非常に得意とする分野の一つであった卜占で三日後に未契約マスターが現われる、と出たのだ。 こうして己の生死と人類の霊的進化を賭けた綱渡りの三日間が始まった。 キャスターは一般人と正式なマスター契約を交わすのではなく、現界に不可欠な依代となって貰うだけに留めた。 そして一時の依代となって貰った一般人からこっそりと精力を命に全く差し支えない程度だけ頂戴する。 するとまた次の依代を転々としそこでも魔力を微量だけ頂戴する。 これをひたすら地道に繰り返し、三日後の正式な契約の瞬間までじっと耐える。 正直に言って青年のこの行動は自殺行為に等しかった。 例えるなら到底足りるとは思えない量の酸素ボンベで海底に潜るようなものである。 真っ当な理性がある者なら絶対に苦しむだけ苦しんで虚しく消えるだけと嫌でも分かろう。 だがしかしキャスターはそれを承知の上で地獄の道を選択した。 人類への愛情か、元主への懺悔か、悲願への執念か。 とにかく彼は一世一大の大博打に勝ち今こうして新たなマスターを得るに至ったわけである。 ◇ ◇ 「おはようございますマスター。相当にお疲れだったようですね。時刻は夕方ですよ?」 ソイツの第一声は穏やかな挨拶だった。 上体を起こしながら実に悪くない態度だと胡乱な頭で燕二はそう思った。 どこぞの役立たずで無礼な弓兵と違ってこのサーヴァントは下僕しての分を弁えているとみえる。 「ふわぁぁぁ~。ん、そうだった。俺はキャスターと再契約したんだったな。 ……んで、おまえ魔力の方は? どの程度回復した?」 燕二は眠気を振り払う為に頭を強めに振る。少しだけ頭が目覚めた気がした。 そしてまず最初に確認したことはキャスターの状態についてだ。 昨夜の森での再契約から間桐邸に帰ってくるまでの道中に大まかな事情は聞いていた。 ライダーの強襲を受けマスターを失ったこと。その後はぐれサーヴァントとなり見苦しい抵抗の末に死に損なってくれたこと。 その為キャスターが瀕死に近い状態であること。燕二も今夜丁度サーヴァントを失っていたことなどなど。 そうやって燕二もキャスターもお互いの持つ情報を交換し合う事で新たな協力関係を結び現在に至る。 「特に問題ありませんね。魔力も六割程度は回復出来ました。 この工房の下を通る霊脈はなかなか上等ですし何よりマスターとの相性がいい。貴方が休息するには最適な力場のようですね」 「ちょっと待てもう六割も回復しただって!? バカな速すぎる、お前まさか嘘を吐いてるんじゃないだろうな? いや……それとも俺が寝る前にお前が敷いたこの魔法陣……そんなに高い効果があったのか?」 「マスターに嘘など吐きませんよ。まぁボクもあらゆる手段を講じて回復に努めましたので。 これは単にマスターが魔法陣の援助により自然から段違いに上がった魔力供給を受けた成果ですよ。 ボクらサーヴァントは大源《マナ》からの魔力供給を受けられませんから。 なので代わりにマスターにはマナを普段よりも数倍多く吸収して貰いそれからボクに流して貰ったと言うわけです。 これだけこちらに流れてきたということは、マスター自身の魔力も完全に回復しているのでは?」 「……え?」 キャスターにそう言われて始めて燕二も自分の状態に気が付いた。 全身が素晴らしく活力に充ち満ちている。昨日の戦闘で底を着く位に消費した魔力も完全に元通りであった。 長年この間桐邸で生活していたが、かつて一度も体験したことのない圧倒的な回復力に燕二は感動した。 「す、凄え……これが、これがキャスタークラスのサーヴァントが持つ性能なのか! イイ、治癒魔術の腕前といい凄ぇいいよオマエ! もうアーチャーなんか不要だ。あんな奴よりも余程有能だぞキャスター!」 「それはどうも。ところでマスター少々話は変わりますがよろしいでしょうか?」 キャスターの真剣な表情で重要な話だと察した間桐は言ってみろと先を促した。 「では。キャスタークラスのボクとしましては新たな工房を用意しておいた方がいいと思います。 工房からのバックアップなしでは白兵戦を得意としないアーチャーにさえ勝てないとわかっていますからね。 三日ほど時間を頂ければそれなりに堅牢な工房を用意出来ますけど如何しますか?」 キャスターの進言に燕二はすぐに準備するよう命令を出そうし、 「おうさっさと用意に入───いや待てよ三日…? いいや駄目だ、それじゃあ間に合わんかもしれない」 唐突に忘れていた何かを思い出したように頭を横に振った。 「え、と………間に合わない、と言うと?」 一方のキャスターも小型の丸眼鏡を指先で触りながら、マスターの言っている意味がよく分からないと小首を傾げた。 「オマエは知らないかもしれないけど、聖杯戦争には明確な期限があるんだよ。 糞爺の話では前回の聖杯降霊儀式は期限切れによる終幕だったらしい。それもグダグダで酷い有り様だったんだとさ。 大聖杯が起動しサーヴァントが召喚可能になってから既に約一ヶ月程の時間が経過している。 七騎全てが揃ってからだと多分半月程度ってところか? 前回もその位の期間で戦いが強制終結したようだからそろそろ制限時間切れも視野に入れて行動しなきゃならない。 俺の読みだと短くて二日、長くて四、五日程度で強制終結するのに工房の用意だけで三日は掛かり過ぎだ。 最悪工房制作途中で儀式が終わるぞ。爺も同じ程度の残り日数と見てるようだから俺達にのんびりしてる時間はねえ」 そう、聖杯戦争には刻限がある。 この生存競争が聖杯を降霊する為の儀式であるからには、中核である大聖杯のシステムが可動している期間内に全部の儀式工程を完了させられなければそれまでの苦労や犠牲の全てが無に帰す。 苛酷な条件ではあるが、大聖杯が開く短い期限の内に七騎全てを消滅させねば冬木の聖杯は完成しないのだ。 だが彼らにはまだ狩り殺さねばならぬ敵が残っている。 「だから俺としては出来れば二、三日以内に残る全てのサーヴァントを消滅させておきたい」 「困りましたね、そうとなるとこちら側も積極的に敵と接触して真っ向から敵サーヴァントを撃破しないといけない。 高い対魔力を持っている相手が残っていると圧倒的に分が悪いですね…」 マスターの方針に従うと非常に厳しい道のりになるであろうことを思えば自然とローブ姿の青年の表情が曇る。 特にセイバーが鬼門。工房内で戦ってなんとか撃退出来るといったレベルの相性の悪さだからだ。 「ああそういえばもう一つ注意事項があった。 俺以外のマスターで大規模な魂喰いをしてるサーヴァントがいるようだからソイツにも注意しとかなくちゃならない。 あれだけ派手に殺せば手駒も相当の魔力を蓄えてるだろうからな。 …………ぁ……そうか、そういうことだったのか…! やっぱり大量虐殺は遠坂の仕業だったんだ! 絶対に間違いねえ! あんな奴がマグレでも俺に勝つなんておかしいと思ったんだよ! 魂喰いで大量の栄養補給をファイターにさせたからヤロウは俺とアーチャーに勝てたんだ! そうに決まってるッ!」 両眼を血走らせ興奮気味に遠坂を薄汚いと罵る燕二。ぶり返した屈辱感は顔を朱に染め憎悪を燃やす。 ────しかし、 「それは違いますよマスター。ボクはその殺人鬼の正体を知っていますから」 マスターの醜態を冷めた眼で見詰めながら、キャスターは意外な台詞を口にしていた。 ───────Interlude ─────── 志士たちがこの冬木に到着し、調査を開始してから三日。 こうして彼らの役目は、その命と共に終わりを告げた。 「な、なして、なしてピストルの弾ぁ喰らって死なん?!! 何故に刀で斬られて血が出らんのじゃ!!?」 志士の脅えた表情に黒い影の塊が笑った……ように見えた。 こうなるともはや逃げることも叶わない。 それは人間が絶対に出遭ってはならない凶運の権化。 不吉を強要する悪魔。事故死に近い災害。 二匹の野犬の口に咥えられてふらりと志士達の前に現われた"ソレ"は、たちまちその呪いのような魅力で彼らを狂わせた。 まるでヒトを魅了する吸血鬼の邪眼だ。 抵抗の余地すらなく妄執に憑かれた彼らは仲間同士でソレを奪い合い殺し合った。 次々に同士討ちする形で仲間たちが死んでゆき、その度に悪魔の姿が変わった。 そして最後に残ったのは二人。 志士の中で最も実力者だった剣士が許しを請う仲間の志士に対して刃を振り上げ、 「ま、まままま、待て! 眼を覚ま───ゾギャ?!」 無造作に頭から一刀両断された。 人間だったものがスイカみたいに綺麗に二つに割けて地べたに転がり、そして赤い花を咲かせる。 何の真実も掴めず。何一つ分からぬまま。何の真相も知ることなく。 最初から部外者であった彼らは、最後まで部外者のままその舞台から退場した。 ───────Interlude out─────── ──────Sabers Side────── 陽もとっぷりと暮れて、深山の町の飯場では食欲を誘う夕餉《ゆうげ》のいい匂いがそこかしこから漂ってくる。 現在彼女が居るのもそんな空腹を刺激する香りを漂わせる飯屋であった。 「ごちそうさまでした。ふぅ、美味しかった」 膳上の夕食を全て平らげた少女は箸を置いて掌を合わせた。 昼間遠坂から不穏な事件を知らされた彼女たちは相談の末、自陣には戻らずそのまま真相究明に乗り出すことにした。 しかし腹が減っては戦は出来ぬ、という諺に従いこうして調査前の栄養補給をしていたわけである。 「む……なによ、これは予め決めてたことでしょ? 異国人の貴方が傍にいたら嫌でも目立つんだから食事の時は引っ込んでるって自分だって了解したんだから我慢して頂戴」 綾香が他人には聞こえないよう小声で誰かに向かって話しかけている。 恐らく霊体化しているセイバーが美味そうな飯にありつけなかった不満を零しているのだろう。 「はぁ、わかったわよ。洋館に帰ったらわたしが何か作ってあげるから。それでいい? うん、じゃあ決まりね」 少女の提案に騎士も乗ったらしい。子供みたいな青年が大人しくなったのが彼女の表情から窺えた。 食事代を支払って飯屋から出る。 まだ周辺には人の気配で溢れていた。これから夕食の者。酒を愉しむ者。夜遊びをする者と実に様々だ。 さて、夜はまだ始まったばかりではあるが早速調査を開始するとしよう。 ファイターのマスターは一足早く行動を開始しているだろうから。 虐殺者の影を追って綾香たちもまた活気付く夜の町へと溶け込んでいった。 ──────Casters Side────── 闇夜の深度を見計らって洋館を発った燕二は従僕を引き連れて夜の町を駆け抜けていた。 装いこそ毎度の袴姿だが、ただ一箇所だけいつもの彼と違う相異点がある。 それは手だ。燕二は墨で塗り潰しているのかと見紛う程に真っ黒な手袋を両手に装着していた。 尤も外見だけでなく中身の方もいつもとは劇的に違うのだが、それは今重要なことではないので保留しておく。 「しかしお前の目撃談は本当なのかよ? にわかには信じられんなその話」 半信半疑な…というより殆ど信じてない表情の間桐。 だがキャスターはそんなマスターの態度にも嫌な顔一つせずに返事をする。 「流石に見間違いようがありませんよあんなもの。 確かに少々信じられない話でしょうが事実です。無差別虐殺を行なっているのは───」 ───バーサーカーの魔剣ティルフィングです────。 キャスターの口から出た犯人の名はヘイドレクが持っていた殺戮の魔剣であった。 ローブ姿の青年は揺るがぬ自信の下にそう断言している。 「だがバーサーカーは何故かその場には居なかったんだろ? 魔剣だけ現界してるなんて珍妙な事態があんのかよ?」 「バーサーカーはまだ現界してて魔剣に別行動を取らせているのか、それとも持ち主は既に亡く魔剣だけが残っているのか。 さてどうなのでしょうね? ただ一つ言えるのはあの呪剣は単独行動が可能であるという点です。 余程特殊な性質持ちなんでしょう。まあ尤も"自我を持つ剣"と言う時点で既に十分特殊な存在ですけれど」 冷静に言葉を返してくるキャスターの説明にまだ完全には納得がいってないのか、間桐は他の疑問を投げかける。 「だがもしティルフィングだとして何で遠坂の野郎が気付かない? 奴の話だと不審な人影を目撃した者は誰も居なかったらしいが。 いやというかそもそもただの刀剣風情がどうやって移動してるんだ? 足が生えるわけでもないってのに」 「その辺りの問題はあの魔剣が元々持ってる機能が解決してくれたようでしたよ。 人や動物などの生き物を魅了して自分を持ち運ばせて移動してるんですよあの魔剣は。 実際にボクが見た時は猫が数匹掛かりで運んでましたから。目撃者がいないのも当然ですね。 仮に暗闇の現場近くで犬猫を数匹見かけたとしても誰もそれが犯人とは認識しない。 そして認識されなければそれは居ないものも同じです」 「ハ、確かにまともな脳味噌してる奴なら犬猫を虐殺事件と結び付けたりはしないか。 さらに魔剣を運んだ人間は他の死体と仲良く死んでるから犯人の痕跡に繋がる事もない……か。 チッ、たかが鉱物風情が生意気にも賢いじゃないか」 「恐らくティルフィング自身の知恵ではなく、ヘイドレクの神域の叡智から学習したのでしょう。 あの狂戦士は一流の戦士であると同時にその辺の知将や軍師では足下にも及ばない策謀の天才でもありましたから」 燕二はさぞ呆れたとばかりに溜息を吐いた後、 「…やれやれ。なんて迷惑な話だ、ったく。 しかしまあ考え方を変えればこの一件は俺達にとっては最高の好機でもある訳だ」 その貌にニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。 「それにしてもマスターは本当に独創的な発想をする人だ。 貴方が最初に魔剣を回収しに行くと言い出した時は本当に驚いたんですから」 キャスターの話に半信半疑だった間桐がわざわざ行動を起こした最大の理由がそこにあった。 もし真実、この魔道の英雄が言うようにまだ魔剣がこの世に残っているのなら……。 それは陣地を作成している時間的余裕のない間桐陣営にとっては最高の武器になり得る。 切れるカードの少ない燕二としては他の連中に発見される前に何がなんでも入手しておきたい魔剣《どうぐ》なのだ。 「ところでもう一度確認しておくが………この手袋本当に効果があるんだろうな?」 「勿論。ボクが丹精込めて作ったお手製の逸品ですのでご安心を。あの程度の呪力ならその手袋で遮断できます」 黒い手袋をやや不安そうに眺める燕二にキャスターは柔和は微笑を返す。 真相を知る者と知らぬ者たちの間に生まれた埋まらぬ溝。 こうして、三組の殺人鬼探しは急遽ティルフィング争奪戦の様相を呈してきたのであった。 ──────Sabers Side────── 闇夜が時間の経過と共に色濃くなるにつれて町の活気は薄らいでいった。 それはきっと不穏当な殺人事件や時代が変わろうとする激動の波に翻弄される冬木の人々のささやかな抵抗だったのだろう。 昏い話題に呑まれまいと必死に明かりを灯し活気付いていた町中も今や静かなもので、周辺には人っ子一人見当たらない。 深山の中心地から離れた地点に位置する区画はそれが特に顕著で、時折この町の警邏を担っている見廻組の集団を見かけるくらいだ。 「誰もいないし、なんにも起こらねえ。いやむしろこの町の空気そのものがもはや異常か」 「本当ね。今は何も起きてないけどいつ何が起こったとしても不思議じゃない空気に町全体がなってる」 不気味なくらいに静まり返った深山の町。 町人はとっくに寝静まっており、冬の寒夜では夜鳥や虫の音すら聞こえてこない。 「さてと、これからどうするアヤカ? この辺はある程度見廻ったけどこれといって何も───」 セイバーが次の場所への移動を提案しようとしたその時、 少し離れた所から静寂を引き裂く数発の発砲音が──!! 「───!? セイバー今の聞こえた!!?」 「ああ! ついに異常発見だな! オレが先に行くぜ、アヤカは後ろからついて来い!!」 そう言ってセイバーは即座に走り出した。 音の発生源を目指し、彼女の足でも辛うじて追って来れる速度で先行する白騎士。 綾香は先をゆくセイバーを月明かりと騎士の甲冑が放つ反射光を頼りに暗闇の中を懸命に追走し、 それから程なくして破裂音のしたその場所へと辿り着いた。 「───────────」 だが、到達したと同時に言葉を失った────。 第一印象は苺ジャム。一面に広がっていたのは赤。 朱色の果実を砂糖《くつう》で煮詰めてハイ簡単出来上がり。 赤。赤、赤。赤、赤赤赤赤赤赤赤々赤赤───!! 血肉をバケツでぶち撒けた凄惨な光景に息を飲む。 咽返る臭気に包まれし地獄の血の池が何故か場違いな地上に出没していた。 そして、その地獄絵図の中心で佇むのは一人の武士らしき男。 だがしかし……それ以上に嫌でも眼が釘付けになって離せなかったのは、 「見ツケタ────ヤット見ツケタゾ貴様達、ゲ、グゲゲゲケケッケゲゲゲケケェケケケゲゲゲゲーッッ!!!!」 一昨日の死闘の果てに、狂乱の戦士と共に消滅した筈の魔剣が血に塗れて狂笑している姿だった……!! 「おい嘘だろ……なんでおまえがまだ現世に残ってやがる!!?」 聖堂騎士は眼前の魔剣侍を完全に敵と見なし素早く鞘から聖剣を抜き構えた。 「本当にどういうことよこれ!? なんで? なんであの剣がまだ残ってるわけ!?」 今の二人の胸中にあるのはまさかという驚愕。思いがけない敗者復活に正常な判断が出来ない。 しかし少女らの状態回復を待ってくれるような悪魔でもなく………、 「見ッケ、見ッケ遂二見ッケタ!! コロスワ、殺殺ス殺ス殺殺殺スス殺ス殺殺殺殺──!! ヘイドレクノ仇…! オマエ滅茶苦茶シタクテ、吐キソウナノ我慢シテ女ノ血モ喰ッタ! ダカラ魔力一杯腹一杯。ダカラ、殺シテ、ア・ゲ・ル・ネ、聖堂騎士────!!!!」 壊れたおもちゃのように侍は首をガタガタと不気味に揺らして、 ティルフィングが問答無用に襲いかかって来た!! 「下がってろアヤカ!!」 敵の進撃に対応したセイバーが迷わず迎撃に出る。 魔剣に脳髄を支配されて鬼へと変貌した志士がこちらへと一直線に突進してくる。 暴走機関車を思わせる突撃。それは悪魔の足下に転がる死体や血液を蹴散らしながらの穢らわしい前進だった。 瞬時に騎士との間合いを詰めてくる。驚きなのはその速さ……!! 「な、一昨日よりも疾い!?」 「■■■■■■ーーーーーー!!!」 復讐を糧に今日まで現世に留まり続けた呪剣が狂った叫声を発して騎士の一刀両断を試みる。 咄嗟の判断で敵の剣撃を受け止めたセイバーだったが、これが想像に反して鋭く重い……!! 「こ、コイツどうなってんだ……! 一昨日の量産品どもとはランクが何もかも違うぞ!!?」 さらに立て続けに放たれる五発の連続攻撃。 敵の攻撃を鮮やかに捌きながらも、やはり一昨日の量産狂戦士とはレベルが全く違うとセイバーは確信する。 パワーやスピードもそうだが何よりも身体の動きや剣の扱いが見違えんばかりに向上していた。 単に刃を振り回すだけのお粗末な剣筋ではない。こいつは間違いなく剣士の太刀筋に他ならない。 「ギゲゲゲー殺殺殺殺ス! 血血血、奪ウ血血ィィィイ!! 素晴ラシイ素晴ラシイ! コノ肉体ハ素晴ラシイ!! イイ肉ダ凄イ肉ダ一昨日ノ駄肉トハ大違イデ桁違イヨ! ズット今ノ身体ヲ使…血血血血違ウ、アタシハ奴ヲブッ殺シタインダモン!!」 敵の言動は常軌を逸していた。既に理性なんて上等なものはもう魔剣には存在しない。 バーサーカーの消滅がこの駄剣の理性とも呼べる部位を完全に破壊していた。 残ったのはセイバーたちに対する復讐心と殺戮本能。 死ぬほど嫌悪している女の血さえも食むぐらいにコイツのタガは外れてしまっているのだ。 「死、死■死死死死■■■■死死死ーー!!!」 奇声と殺意を振り撒いての剣の乱舞。志士の肉体に染み付いた修練がスムースな剣戟を実現する。 「セイバー! やっぱりそいつ一昨日の狂戦士たちよりも能力が高いわ! 注意して戦って!!」 後方に控えた綾香がサーヴァント透視能力で得た情報を騎士に伝える。 直接手合わせているセイバーの主観だけでなく、客観的な視点からもこの狂戦士が一昨日の紛い物とは質が違うと証明された。 「そうか、乗っ取る肉体の性能次第で能力も上下すんのか! なんてふざけた糞剣なんだよクソッタレめ! コノ…! 相当腕の立つ剣士なんだろうなこの男!!」 騎士と侍が互いの急所へ鋭い刃を叩き込み合う。 しかし剣は敵の心臓や首を斬り裂くこと叶わず、相手の防御が鋼の壁となって立ち塞がる。 激しく斬り結ぶ彼らの足下は汚らしい血肉の沼で酷くぬかるんで闘い難い。 そして狂戦士の暴れ狂う挙動の度に赤い飛沫が騎士の純白姿を醜く穢していく。 攻勢を強めるティルフィング。無数の乱撃が血飛沫と共に飛来する。 大規模な殺戮で相当な魔力を喰い蓄えたのだろう。ろくに依代も魔力供給源も無い癖に単騎でこれだけ暴れられるとは恐れ入る。 だが、そうせずにはいられぬ程にティルフィングにとってヘイドレクという英雄は価値のある存在だったのだろう。 そんな相棒の無念を晴らすべく魔剣は狂気を増幅させながら狂い続ける。 「知ッテルワ、貴様アタシニ勝テナイ。男ノオマエ勝チ目無イ、クゲケケケケェーーーッ!!」 「…………………!!」 そんな本物の地獄絵図のような血戦のリプレイを少女は固唾を飲んで見守り続ける。 正直な話をすれば戦闘の迫力はさしてない。 それはそうだ、あの狂戦士はファイターやランサーらに比べれば三下も三下なのだから。 だが、死体が散乱する血みどろの戦場で妄執と怨念と狂気を迸らせているのであれば話は変わってくる。 人間の持つ理解出来ぬモノへ対する原始的な畏怖の念が少女の身体の奥からふつふつと沸き上がってくるのだ。 ─────しかし、それもあくまで人間であればの話。 狂気も怨念も妄執も憤怒も執念も憎悪も怪物も悪魔も地獄も、 こっちはそんなもんはとっくに見慣れてるんだよと言わんばかりの冷めた瞳で─── 「オイ勘違いすんなよ駄剣。 オレを追い詰めたのはオマエなんかじゃない、高き誇りを持ったバーサーカーだ。 もう一度だけ言ってやるからしっかり覚えておけ」 「──ギ?」 「思い上がるな、オレを追い詰めたのは断じて貴様などではない─────!!!!」 踏み込みは疾風。振り抜かれる斬撃は雷の一閃。 瞬きも許さぬ一瞬の出来事。 音を抜き去る騎士の反撃はただの一撃で怨念に操られた狂える悪鬼を永久に黙らせた。 「ギ───ガゲ……、ギ─────!!?」 弾かれた魔剣が虚空を舞う。 寄生していた志士の体は修理の効かない損傷を受け、もはや操り人形としての用をなさなくなっていた。 天界から追放された天使が地上に墜ちる。 そんな馬鹿な空想を一瞬抱いてしまうある種の美しさを伴って、魔性の刀身は大地に深々と突き刺さった。 「終わりだな魔剣。どういう原理で現界しているのかは知らんが、ここでぶっ壊しといてやるぜ」 神に代わって魔を撃滅する者して、セイバーは眼の前の"邪悪"を見逃す気など毛頭なかった。 墓標のように身動きが取れなくなったティルフィングに聖堂騎士が冷淡な死刑宣告をする。 「ウ、動ケナイ!? キキキ貴様、貴様貴様貴様ーー! キサマキサマキサマキキキキキキサマ!! アアアァァァアアアアーーー! ギィイキキケケエケケキキケゲグギケケケアアエエエエゲエアアエーー!! 殺サセロ殺サセロ殺サセロ殺サセロコロス殺殺殺ロシタイデス殺殺ロス殺サセテヨゥ!!」 言葉を喋る為の器官など持ち合わせていない癖に、二人の脳内に直接言語らしきものが念話のように雪崩込んでくる。 「きゃ───な、なにこの音?! あ、頭痛い…くぁ!!」 騎士の背後では綾香が両手で耳を塞いで激しい頭痛に耐えていた。 魔剣の声は黒板を爪を引っ掻いた時に発生するあの不快な音にどこか似ている。 長時間聴いているだけで正気を失いそうだ。 「ぐっ痛…! このやろ最期の最期まで往生際の悪い奴め。だがこれでテメーの足掻きも終いだ!!」 「ヤ、止メ───」 悪魔の命乞いになど耳を貸さず、高らかに振り上げられた聖剣デュランダル。 そして躊躇なく一撃の下で魔剣を破壊しようとし────── 「────え? な、今度は何!? なんなのこれ……ッ!!?」 騎士は主人の悲鳴でその処罰の手を止めざる得なかった。 「何かの魔術が発動してる!? ヤバイ早くそこから逃げろアヤカーーーッ!!!」 歪んでいた。少女の周囲の空間が陽炎のようにぐにゃぐにゃと歪んでいた。 一目で看破出来るくらいの多大の魔力を動員した魔術式が起動している。 その場から逃げようとする綾香は、しかしそのぐにゃぐにゃの空間に囚われたみたいに全然身動きが取れずに……。 やばい。アレが一体何の魔術かは知らないがとにかくあれはマズい。 マスターの身の危険を察知し、セイバーが少女の許へと走り出す。 だが、騎士が少女の細腕を掴むよりも一足早く─── 「た、助けてセイ──────」 綾香の姿は霞のようにその場から掻き消えてしまっていた。 ──────V&F Side────── 助けろ!ウェイバー教授!第三十回 ∨「明けましておめでとう皆鯖マスターの諸君。 新年を迎える代わりに死亡フラグ立ててデッドでバッドなエンドを迎えたマスターは私の教室へようこそ」 F「あ! ちょ、ローランさんお団子なんて食べちゃ駄目です! そこの臓硯お爺さんも雑煮は食べないで下さい! それは殺人食物と名高いMOCHIじゃないですか!」 槍「何を申すかフラット殿。餅が入っておらぬ雑煮など出そうもんなら膳ひっくり返して蜻蛉墜しでござるぞ」 ア「セイバーが食べていたオダンゴと言うものは美味しいのかしら?」 メ「あれは貧しき平民の食べ物です。お嬢様のような高貴な御方が口にするに値する品ではございません」 弓「新年早々燕二死ね! さあ此処へはよ来んかい!」 ソ「キャスターももうよかろう? 見苦しい出番増やしはやめて忠誠を誓ったマスターの所へ来い」 ∨「新年早々亡霊どもに目をつけられるとは可哀想な連中だなあの二人も……」 弓「なーにが可哀想なものか。そもそもマスターとサーヴァントは一心同体の運命共同体じゃろうが。抜け駆けなど許されんわい」 槍「真っ先にその抜け駆けをしようとして見事失敗しおったくせに(ボソッ」 ソ「そうだよく言ったぞアーチャー! まったくその通りだ! そもそも下僕が主人よりもry」 狂「おーおー負け犬どもがキャンキャンと吼えてやがるのが笑えるぜ」 雨「流石バーサーカー! 敗者になってもその態度くーる過ぎるぅぅぅう!」 弓「そういう貴様じゃって魔剣だけが現世に残っとる状況になんとも思わんのかい! まあ尤も既に負けそうじゃがな貴様の遺留品は。プッ、ぶわーはっはっは遺留品とは上手い事言ったぞワシ!」 ア「遺品……クスクス」 メ「ああっ遺品というフレーズがお嬢様の笑いのツボに!?」 雨「ちょ遺留品とか言うなこの昆布王! 英雄海物語め! バーサーカーに謝って、すぐ謝って!」 狂「ハァ? 馬鹿かテメー? これからおれのティルフィングは逆転してアイツらムカつく糞虫どもをグッチャグチャにすンだよ」 ソ「それは無理だろう。そのグッチャグチャにする相手がどこかへ消えたではないか。 いやそれ以前の問題か、セイバー相手には実力不足だろうアレ。なにせ奴が本気になった途端一発撃沈だったからな」 狂「………それは、なんだ、ほら……チッ! もっと踏ん張りやがれよティルのヤロウ! たかがパラディン風情に遅れを取りやがって情けねえ! つか次回でセイバーの野郎がティルの元に戻って再戦すンだよ」 槍「いやぁ流石に消失した綾香殿を放っておいて悪霊退治なんてやらかした日には拙者の霊魂が憑依合体で天変地異でござるぞ」 F「なるほど、つまり場外乱入でコブラツイストってことですね!?」 弓「やっぱ並以下のバーサーカーじゃセイバー相手は荷が重過ぎたか」 ア「我らアインツベルンが招来したサーヴァントの実力を以てすれば貴方達を含むその辺の有象無象の英霊など敵ですらなくてよ」 雨「あんたらその有象無象の英霊とそのマスターの謀略で死んだじゃん……」 ア「私はこの戦いで一番恐ろしいのは敵ではなくアホな味方だと学びました」 メ「お嬢様大変ご立派になられましたね…!(感涙」 ∨「さてと、各陣営は着々と終幕へ向けての準備に入っているな。 目下最大の障害であるライダーへの対抗策として遠坂陣営と同盟を結んだ沙条陣営。 工房の建設不可という切り札不足という状況を解決する為にティルフィングの回収に向かう間桐陣営。 そして動向がまだ不明のゲドゥ陣営がどう動くかだな。 NPCキャラ的な立ち位置だった維新志士の一団は幕府陣営に一足遅れてこれで全滅。あと残るはティルフィングだけか。 沙条陣営も現在トラブってるようだから下手をすると次回に辺りにでも新しい転入生が来るかもしれんな」 槍「まさかフラグを立てようとする気でござるか教授殿! 危なっかしい二人がもしも死んだらどうするでござるよ?!」 F「しかし殺人鬼の正体はまあ皆さんが予想通りのものでしたねえ。もっと捻った方が良くなかったですか?」 ∨「無茶を言うんじゃないフラット。ASは純正英雄しかいないのにそんなダークサイドな真似出来る訳ないだろう。 セイバーは性格的に無理。ファイターとキャスターはその経歴的に殺戮行為なんてありえない。 ライダーは神と王と法の名の下でしか大量粛清はしない。というかパーサーカーですらこんな虐殺はしないぞ」 F「へ?」 槍「なんと?」 弓「ハハッまたまたふかしおってマスター∨め!」 雨「え?!」 狂「驚いてンじゃねえよこのボケどもが! 特にえ!?とか抜かしてるテメーだテメー! おれはテメェと違って無駄な殺しはやらねえ主義なんだよ!」 V「……一応言っておくがヘイドレクは歴とした純正の英雄なんだぞ? 別に殺人鬼でもなければ虐殺者でも反英雄でもない」 ソ「意外だな。私も今までずっと主従共に似た者同士かと思っていたが?」 狂「寝言は寝て言え二流貴族の坊ちゃんが。おれは戦士だ。人間を殺すのは戦場と戦争の中だけだ」 雨「だ、だったらなおさら冬木は戦争なう!」 弓「まあそれはそうじゃな。この港町は戦時下も戦時下、いや下手な戦よりも相当危険な戦場じゃわな。そこんとこはどうよ」 狂「そういうテメーは戦争ならば仕方ねえと虐殺行為に走る趣味でもあンのか?」 弓「んなもんあるかい悪趣味な! 戦で犠牲者が出るのは避けようのない現実じゃが自分から死体を増やす趣味はないわ!」 狂「同感だな。それが真っ当な脳味噌をした戦士の思考だ。 もし仮に殺すにしても不必要な分は殺さねえし侵さねえし犯らねえよ。戦争に勝って他国を蹂躙する場合でもそうだ」 槍「ほう、それがおぬしの戦での規則というやつか」 狂「つまりトラノスケ、テメーらみたいな脳味噌イカレ煮込み共と一緒にすンなってこった。 もし次にこのおれをこいつら糞どもと同じ穴の狢に数えやがったらそいつの首を落としてやるから覚悟しな」 F「あ、あの……ヘイドレクさん? 問答無用の殺人はいけないんじゃないのでしょうか!?」 狂「おいおい小僧知らねえのか? おれら北欧の戦士は面子が命なんだぜ。嘗められたら戦士や傭兵としての価値が下がるのさ。 だからおれたち北欧戦士は己の面子や沽券の為に命を賭けたり相手をぶっ殺したりするのは当然なんだぞククッ!」 F「似た者なんて口が裂けても言いません!」 ソ「う、うむ、私もそうしよう。他人の悪口など下品で貴族にあるまじき行為だからな(コクコク)」 V「この教室での殺し合いは私に迷惑がかかるからやめておけ? どうしても殺りたいのなら教室の外でやってくれ。 私の平穏の邪魔をしない限り好きなだけ殺し合えばいい。さてと、今回はここまでだ。それでは次回また会おう諸君」
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/929.html
磨耗した英霊サンタクロース 「わしは・・・・飢えて死ぬ子供の前で、殺戮の刃に倒れる子供の前で、炎に焼かれた子供の前で、ただ玩具を握り締めるだけの道化じゃ」 「子供たちを救うことも出来ず、ただ己に課された役割のみに動く、それが守護者じゃというのなら、わしはそんなものになりたくなぞなかった・・・!」 サンタ「神───というものが存在するなら私の声を聴け!」 サンタ「何故私が守りたいと…大切にしたいと思う未来への希望を貴方はこうも残酷に奪っていくのか…!?」 サンタ「私は空虚な玩具を握り締め、後何回泣いたら…どれだけ絶望すれば許されるのか…!?」 サンタ「よかろう…ならば神よ!貴様に代わり私が新世界の神となろう!」 サンタ「悲しみの無い世界!子供達が安心して生きられる世界!無垢な世界を!」 サンタ「掃き溜めの世界を希望で消し去ろう…そのためにィィッ!貴様らを殺し聖杯を我が手中に納めるッ!!」 空中要塞に向かうサンタと橇に乗るドンキ、トリスタン 要塞の迎撃を辛くも避け、近づいたが鹿とサンタが倒され墜落しそうになる。 墜落しているドンキとトリスタンに向かった要塞から強力な炎の魔術が放たれる 要塞から迫る炎に飲み込まれそうになるが、トリスタンがドンキを番えて要塞に突入させる 「・・・・後は頼んだぞ!ドンキーーーーー」 トリスタンは炎に飲み込まれて消滅する 「この絶望に満たされたセカイに、泣き叫ぶ子供らに、今こそ救済を――――!!」 『豚肉飛び散る精肉場(シュティレ・ナハト)』――――ライダーの保有する、八頭の聖なるトナカイが牽引する橇に乗っての蹂躙走法、ライダーの保有する、最大の攻撃手段。 聖別された雪と豚肉を撒き散らしながら疾走する八頭のトナカイは、立ち塞がるあらゆるものを打ち砕かずにはいられない。 「駄目だメリー、下がってくれ!! 下がるんだ、頼む!」 士郎は、傷ついて動けない自分を守って立ち塞がった自らのサーヴァントに、懇願するように叫んだ。 「嫌ですよ、士郎。もう、独りぼっちになるのは嫌だもの……」 「……メリー」 互いを庇い合うかのようにして迫り来る破壊の橇を見上げた二人の姿に、 寒い冬の中で、打ち捨てられた路地裏で、銃弾の飛び交う戦場で、ライダーがずっと見つめ続けてきた子供たちの面影が重なった。 「迷いも甘さももはやあの糞塗れの聖夜に捨てた! もはや目の前にいかなる英雄や怪物が立ち塞がろうとも知ったことではないと決めた! いかなる戦場の熱をもワシの凍りついた魂を溶かすことなど出来ぬというのに…………!!」 それなのに……。 「っ、ぅオオオオおおおおおぁあああああああああ!!」 ライダーの橇は、呆然と見上げたメリーの目の前で止まっていた。 「これが、ワシの末路か……」 呆れ混じりに笑い、ライダーは、メリーの握った包丁に深々と突き立った自らの腹を見た。 余りに滑稽すぎて笑おうとすれば、ごぼりと、喉の奥から血反吐が溢れて来る。 「ごめんなさい、ライダー……あなたが、あの時のサンタクロースだったのね……」 少しずつ真っ白になっていくライダーの視界の中で、小さな少女が泣いているのが見えた。 残る力を必死に振り絞って、ライダーは、泣きじゃくる少女の頭に、そっと手を置いた。 「いいんじゃよ。ワシはサンタクロース……泣いている子供に、ワシが最後に送ってやれる、クリスマスプレゼントだよ」 少しずつ薄れていく血潮に塗れたライダーの姿は、まるで彼が本来在るべきと願われていたかのように、赤く染まっていた。 深々と雪が降り注ぐ音がする。どこかで、聞き慣れた鈴の音が聞こえてくる。 『ねえねえ、お爺ちゃん、サンタクロースって、本当にいるの……?』 どこかで、懐かしい声が聞こえてくる。 気がつけば、彼の意識は、あの、懐かしい故郷の暖炉の側に座っていた。だから、自分はこう答えてやるのだ。 『ああ、そうだ。サンタクロースはいるよ。おまえが、良い子にしていれば、きっとサンタクロースはプレゼントを持ってきてくれるよ』 その時、自分は何と答えただろうか。薄れていく意識では思い出せない。 「ああ……ワシに、泣いている幼子を見捨てておけるわけがないと、分かっていたのにな……どこで……どこから……ワシは……間違……って…………」 そして、最後に残された最強のサーヴァントは、光に包まれて、消えた。
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/117.html
※時間的には原作のランサー襲撃後凛と話し合った後の場面ぐらいだと思ってくだちい 一息ついたところで、セドナはさらりと爆弾を投下した。 「そうね……ではせろー、おふろにいれてくださらない?」 「――――え゙?」 驚愕とも確認とも、或いは呻き声ともとれる言葉を出したのは、キャスターを除く三人の誰であったろうか。 キャスターの口にした事に、一瞬その場の空気が凍り付き―― 「……な、何を言ってんのよキャスター。霊体化出来るサーヴァントにそもそも入浴なんて必要ないでしょうが、ええ」 誰よりも早く答えを返したのは遠坂凛であった。 少しどもりながら、しかして周囲(主に二人)を圧する気を放ちつつセドナの発言に釘と言うか杭を突き刺す。 しかしセドナは大層気持悪そうに赤黒い血糊の着いた髪に触れると、 「返り血が付いた髪を洗わないなんて、気持悪いと思わなくて? それに一度日本のお風呂ってどんなのか入ってみたいんだもの」 と、可憐な笑みを浮かべ言った。 はぁ、と凛は溜め息を一つ付き、心底呆れたような表情を浮かべる。 「だからね、私が言いたいのは――――何でわざわざ衛宮君を御指名したのかしら」 ぎろり、という擬音がよく似合う視線を士郎に振り向け、びくっ、と少年が一瞬震えた。 まさしくは猫に睨まれ窮する鼠と言ったところか。 「あら、自分のマスターと離れて行動するなんてサーヴァントにあるまじき仕儀。使い魔不覚悟も良いところ。 それに私は見ての通り手が不自由だから、誰かに洗って貰う必要がありますの。 でもね、同じ女だからといって、敵となる魔術師に御髪(おぐし)を預ける気はありませんわ」 そう言いセドナは包帯で巻かれた両の掌を凛に見せながら、士郎へと寄りかかるようにして、顔を見上げた。 ちょうど猫や犬が主人に甘えるそれのように、その顔を少年の胸に擦りつける。 「だからせろー、わたくしのすみずみまでを、あなたのてできれいにしていただきたいの」 ただし少女が顔に浮かべた甘えの笑み、そして猫なで声で口にした言葉はその外見にそぐわぬひどく妖艶なものだった。 その甘い言葉遣いに、士郎の頭は真っ白となる。まこと少年は蛇に睨まれた蛙の様相を呈していた。 「――――な、なにを」 「何言ってんのアンタは!」 顔を真っ赤にしながら、ダン、と凛はちゃぶ台を叩いて士郎の言葉を遮るように咆哮した。 「あら、せろー。なにかいのししがうなっておりますわよ」 「……猪って。それに遠坂は猪突猛進じゃなくて、どっちかと言うと悪知恵を働かせるタイプだと思うぞあべしっ!?」 最後まで言い切らないうちに、凛のガンドが二人に降り注ぐ。キャスターは何時の間にか士郎を盾にして、 それを完璧に防いでみせると、しくしくと泣き真似をしながら叫ぶ。 「まァ、非道いッ! 何て野蛮な魔女! せろー、しっかりなさってせろー!」 「盾にしたのはアンタでしょーが!!」 どうでもいいが早く助けてくれ、と少年は心底思ったのであった。 士郎→セドナ 凛→きみのすきなサーヴァント(さーばんと)をいれてね! 煩悩を抑えきれなかった結果がこれだよ! あとセドナが士郎を呼ぶ時「せ」ろーなのはイヌイット発音だけど、しぇろーかも知れない。 ひらがななのは甘えの表現です。親に海に捨てられたセドナは、士郎の見てないとこで「さむい、さむいよ……せろー」といつも震えてるんです。多分。
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/2538.html
【元ネタ】史実 【CLASS】アーチャー 【マスター】 【真名】プトレマイオス 【性別】男性 【身長・体重】182cm・78kg(第1、第2再臨)/210cm・142kg(第3再臨) 【属性】秩序・中庸 【ステータス】筋力B 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運A++ 宝具A+ 【クラス別スキル】 対魔力:B 単独行動:A 陣地作成:A+ 霊基情報保存:A 【固有スキル】 救済のカリスマ:A 救済者(ソーテール)と呼ばれたプトレマイオス一世の、独自のカリスマ。 血なまぐさい前半生に比べて、彼の後年は慈悲に溢れた治世を行っていたという。 分割思考(王):A アトラス院の分割思考と似て非なるもの。 訓練によって身につけた技術ではなく、そのようにプトレマイオスは生まれついた。 必ずしも神秘を必要としない能力であるため分かりにくいが、現象としてはある種の超能力に近い。 叡智への接触:EX 自らの宝具たるアレクサンドリア大図書館にアクセスすることで、保存されている自らの霊基情報を取得し、変換する。 これによって、プトレマイオスは最適な姿と能力で敵を迎撃することが可能である。 【宝具】 『月は知らず、久遠の光(ファロス・ティス・アレクサンドリアス)』 ランク:B++ 種別:対城宝具 レンジ:0~50 最大捕捉:100人 ファロス・ティス・アレクサンドリアス。 ギリシャ語では『ΦΑΡΟΣ ΤΗΣ ΑΛΕΞΑΝΔΡΕΙΑΣ』。 世界の七不思議にも数えられる『アレクサンドリアの大灯台』は、実に五十六キロ先の 相手を探り当てることも、海岸線の船を焼くことも可能だったという。 サーヴァント・プトレマイオスが宝具として扱うのは、この大灯台の要となる「鏡」である。 若かりし頃のイスカンダルとの征服行で手に入れた鏡は、あらゆるエネルギーを強烈な光と熱に変換する。 普段は鎧の内側に仕込んでおり、後に神官団を組織することになるプトレマイオスの生来の魔力を喰らうことで、強烈な光の奔流を放つのである。 アルキメデスの宝具『集いし藁、月のように燃え尽きよ』と似て非なる宝具。 『王の書庫(ビブリオテーケ・バシレイオー)』 ランク:A+ 種別:結界/対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:100人 ビブリオテーケ・バシレイオー。 ギリシャ語では『ΒΙΒΛΙΟΘΗКΗ ΒΑΣΙΛΕΙΟΥ』。 プトレマイオスとその息子が協力してつくりあげたという、アレクサンドリア大図書館を召喚する。 ただし、この宝具によって召喚されるアレクサンドリア大図書館は、当時のプトレマイオスがアトラス院と協力することによってつくった「もうひとつのアレクサンドリア大図書館」と合一したものである。 賢者の石と同じフォトニック結晶の樹木が生えて、アトラス院の知恵を味方全員に与え、同時にその防衛機構を使って敵を攻撃する。 アトラス院の知恵を与えられたものは、一時的に高速思考・分割思考状態を付与・増強される。 これはアトラス院の錬金術師が持つのと同じ、未来視的な状態である。 『灰燼の叡智』 ランク:EX 種別:対史/対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人 ソーテール。 ギリシャ語では『ΣΩΤΗΡ』。 厳密には、第三宝具ではなく『王の書庫』と『月は知らず、久遠の光』の二重融合宝具である。 『王の書庫』に眠るアトラス院の情報を、『月は知らず、久遠の光』によってすべて魔力の光に変換して放出するというもの。 プトレマイオスの体中に結晶の樹木が絡めついて、彼を固定。その後、光を更に拡大するための結晶レンズを複数生み出し、プトレマイオスというサーヴァントを砲門の一部につくりかえてしまう。 アレクサンドリア大図書館が最後に燃え落ちたという伝承から生まれるその光は、人類史を熱量に変えた、かのビーストの光と本質的に同じものである。 ただし、前提から分かるように、この宝具の使用は『王の書庫』へのアクセスを不可能にしてしまい、『月は知らず、久遠の光』さえも破壊し、さらにプトレマイオス自体の霊核も砕いてしまう。 つまりは、三重の壊れた幻想トリプル・ブロークン・ファンタズムである。 ソーテールとはプトレマイオスの二つ名であり、救世主、救済者、守護者という意味。全身全霊で守ってきた叡智の何もかもを燃やし尽くすその瞬間にこそ、真なる救済は現れる。
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/191.html
黒鍵が奔る。六つの閃光が綺麗な放物線を描きながらキャスター目がけて襲いかかった。 「うふふ」 だが、キャスターの笑いともに、金属の甲高い悲鳴が響きわたる。 キャスターの周りにひしゃげた黒鍵の残骸が飛び散る。 キャスターの手には、赤く染まった巨大な槍が握れていた。 残骸の雨の中、綺礼はすばやくキャスターの懐に入り込み、キャスターの顎を吹き飛ばすかのように綺礼の拳を舞い上がった。 八大招式・立地通天炮 八極拳絶技が今度こそキャスターを倒すべく名乗りを上げた。 「ふふ、うふふふ」 それをキャスターは凄絶な笑みを浮かべながらそれを迎えた。 「――――っ、言峰が言っていた筆ってコレのことか」 士郎は教会の扉を乱暴に開け、転びそうになりながらも、問題の部屋に到達した。 その手には先ほど見つけた筆が握られていた。 一見なんの変哲のない筆だが、濃密な魔力が感じられる。 絨毯を捲り上げ、床に筆を付けた。 すると筆がだんだん湿りだし、魔力の帯びた赤い液体がトクトクと流れ出で来た。 言峰に言われてようにほぼ走り書きで書いていく。 こんな適当でホントに成功すんのかよと思いつつも、これぐらいのスピードで書かないと間に合わない。 慎重に書いて時間切れで、キャスターに殺されるぐらいなら言峰の言を信じるしかなかった。 「よし」 一応、拙いながらも召喚陣としての体裁を取っている陣をみて深呼吸する。 ここから本番だ。 イメージする。それはかつてこの世界に溢れ、今では空想と貶められた奇跡の再現――魔術。 それを行使するためには本来ありもしない神経を生み出す必要がある。 頭に浮かぶ神経一本一本を裏返して、それぞれが幻想を纏うようにしていく。そのイメージが頭から順に降りていく。 「そ、素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ」 その呪文を唱えた時、体中の魔術回路が一気に励起する。 あり得ないものをあり得るものすることを驕傲と歌うのか体の節々から痛みがこみ上げてきた 「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」 痛みが増し、思わず先ほど覚えた呪文も忘れそうになる。 「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。 繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する」 召喚陣に赤い燐光をあげる。密閉した空間に風が吹き付ける 「告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るベに従い、この意、この理に従うならば応えよ。 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!」 痛みが閃光は最高潮に達し、爆発した。ドッサっと士郎は尻餅をつく。急激な虚脱感が体に襲いかかった。 「っ」 片手に焼けるような痛みが走る。見れば、三画で描かれた奇妙な文様が刻まれていた。 召喚陣の中心には、一人の女性がスカートの端をつかみ、恭しく礼をしていた。 「今宵、聖杯の招きに応じ、現界しました。我が名はアーチャー。――弓を射る者です」 アーチャーと名乗る女性が顔を上げた瞬間、士郎は思わず息を飲んでしまった。 言峰がキャスターと呼んだ女も凄絶な美女だったが、それに比肩するほどの美しさだった。 しかも間近で見る分、思わず士郎は見とれてしまった。目の前にいるのが彫刻と錯覚する整った顔立ち。 艶のある金の長い髪は揺れるたびに砂金が零れているように輝いてみえた。 「問おう。あなたが私のマスターか」 「え? あ、ああ。召喚したの――――」 士郎の話を遮ったのは、微弱な揺れと大きな音だった。士郎は現実へと引き戻された。 「悪い。説明あとでするからちょっと来てくれ」 「はい? え、ちょっと」 急な発言に戸惑いを隠せないアーチャーを尻目に士郎は駆け早に聖堂へと向かった。 聖堂の扉には大きな風穴が空き、砕けた木片がそこら中に飛散している。言峰は祭壇にもたれ掛かる形で倒れていた。 「言峰!」 最悪の状況が脳裏を掠め、士郎は急いで駆け寄った。 「令呪。フン、どうやら召喚には成功したようだな。 いま貴様がマスターとなった時点で、ここからは参加者の問題だ。私はもう干渉せん」 少し弱っているものの、その言葉は淀みなく紡がれたので士郎はほっと胸を撫で下ろした。その彼の前に影がすうと伸びてきた。 「御免、ごめん。つよく投げ飛ばしすぎちゃった。お姉さん、反省ですう」 木片を踏み潰しながら、キャスターは一歩ずつ迫ってくる。キャスターは目を細めながら呟いた。 「へー、やるじゃなぁい、僕。サーヴァントを召喚したんだ。 本当はあとでじっくり教えてあげようと思ったのにぃ、こいつが邪魔するから」 キャスターは軽口を叩きながらも、右手の槍を握り替えしていた。 表面的には余裕を装っているものの、こちら側のサーヴァントを警戒しているようだ。 「成る程、こういう事だったのですね」 突然、誰もいない所から声がすると思うと同時にその空間が揺らぎ、アーチャーが実体化した。 「あら、あらあら。随分と可愛らしいわねぇ。お嬢さん。 見たところキャスターみたいだけど、キャスターは私だから、一体なんのサーヴァントかな?」 キャスターの声色からやや警戒心が薄れたのを感じた。士郎は自分の不安が的中したと確信した。 このアーチャーは確かに並はずれた魔力があり、キャスターと同規格だとわかったが 衛宮士郎という存在なら思い一つで殺せるような圧倒的な力が感じられないのだ。 魔力という点を抜けばアーチャーは自分と殆ど大差がなかった。 こちらの心配をよそにアーチャーは前に歩み出ながら、士郎に視線を送った。 “マスター、命令を”という視線を。 士郎は知らず知らずの内に頷いてしまった。なぜならアーチャーには得にも言わせぬ雰囲気があったからだ。 「セイバーというカンジではなさそうねぇ。あ、もしかしてライ――――」 「―――吹き飛べ」 キャスターは消えた。 いや正確には吹き飛ばされた。向こう側でキャスターが転がっていた。 「では、マスター後ほど」 目を見開いている士郎に微笑を浮かべながらアーチャーはしっかりとした足取りで、教会をあとにした。 しくじった。先ほどの衝撃を殺し損ない転がるキャスターは自分の過ちを恥じた。 あの手のサーヴァントが最も危険なのだ。低いステータスでありながらも強力な一手を持った、いわゆる宝具に特化したサーヴァント。 確かにステータスで優秀あるほうが良い。それで戦闘を有利に進めることができるだろう。 しかし劣勢も跳ね返し番狂わせをもたらす切り札というものが別に存在する。それが宝具なのである。 先ほど、キャスターを吹き飛ばした壁も宝具だと考えてよいだろう。 「ぷはぁ。私が知っている奴は厳つい奴多かったもんなぁ。 うーん、三十六変とか七十二変とかやっている奴いたから見た目は重視してないつもりだったけどなぁ。うーん反省」 キャスターが飛ぶようにして立ち上がる。壊れた教会の扉の前で、先ほどのサーヴァントが片手を腰にあて立っていた。 キャスターは凝視する。 白を基調とした豪奢なドレス。明らかに戦場とはほど遠い出で立ちで武人から感じられる殺気というものが一切なかった。 戦場に迷い込んだお姫様という感じである。 「えっと、キャスターですね。いきなり攻撃してなんですが、この場は立ち去ってくれませんか。 マスターとの契約の問答をまだ終えていませんので」 キャスターは思考する。 先ほどの宝具があるために接近戦は芳しくない。なら狙うなら遠距離であろう。 「もう、しかたないわねぇ。お姉さん優しいからこれで許してあげる」 キャスターが指を鳴らし、それに呼応するかのように教会一帯に青い光を灯した特殊な文様が浮き出てきた。 周囲の状況の変化にアーチャーは目を見張った。 「! まさか、それは」 アーチャーの声が震える。先ほどまで月が出ていた夜空が曇り、雨が降っているのだから。 魔術を少しでもかじったモノであるならば絶句していただろう。それは雨乞いのようなものではなくもっと高度な魔術。 「――――天候操作ですか!」 地面に描かれた魔法陣から膨大なマナがくみ上げられキャスターを介して空へと上っていく。 今、雹を降らし、竜巻を起こし、地震をも起こすのもキャスターの思い一つで決まってしまう。 それこそが天候操作。常人でははかり知ることができない領域が目の前にあった。 「まあ、限定的なモノだけど。それより、アーチャー貴方ちょっと病的に白いわ。もうちょっと焼いた方が健康的でいいわよぉー」 極上な笑みを浮かべながら、右手を振り下ろす。 そして世界は光に包まれた。そのあとを追うかのように轟音が響き渡った。
https://w.atwiki.jp/bokuserve/pages/1848.html
【元ネタ】史実、叙事詩 【CLASS】アーチャー 【マスター】 【真名】スンジャータ・ケイタ 【性別】男性 【身長・体重】174cm・67kg 【属性】中立・善 【ステータス】筋力A 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具B 【クラス別スキル】 対魔力:C 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。 単独行動:B マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。 【固有スキル】 カリスマ:C 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。 カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。 【宝具】 『禁忌犯す致命の矢(タブー・オブ・スマングル)』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:5~60 最大捕捉:1人 鏃に白い鶏の蹴爪が仕込まれた、不死殺しの矢。 この矢に射られた者は、物理ダメージとは別に魔術的な“孔”が開かれる。 この孔はいかなる方法を持っても塞ぐことは出来ず、その部分より魔力が流れ出て、 通常のサーヴァント・マスターならば数時間の内に死に到る。 また、魔術師殺しの特性も持ち、あらゆる魔術防御はこの鏃に意味を成さない。 【weapon】 『無銘・巨弓』 『致命の矢』を放つ時に使用された巨大な弓。 アーチャーの怪力に耐える頑強さを誇る。 【解説】 マリ帝国を創始した立身帝。1217年生誕。1255年没。在位1230年-1255年。 マリンケ族の小国の王子でありながら幼少時は虚弱体質で、母と共に国外追放されたが その後は戦功を挙げ、黄金の帝国マリを築き挙げた英雄である。 グリオ達が伝えるその生い立ちは実に神話的で、現在でも英雄叙事詩として語られている。 魔牛の娘であった醜女ソゴロンは、マリンケ族の王ナレに献上された。 ナレは醜い女との間に儲けた子が強力な王になるという予言を受けていた為であったが、 生まれた子スンジャータは自分で立ち上がることも喋ることも出来なかった。 それでもナレはスンジャータを後継者に決めていたが、ナレが亡くなるとスンジャータは兄王子によって冷遇された。 ある日、母を侮辱されたスンジャータは一念発起して立ち上がろうとし、持っていた鉄の棒を折ってしまったので、 木の枝を支えに立ち上がり、バオバブの巨木を素手で引っこ抜いて見せた。 この日からスンジャータは強力な狩人へと成長するが、兄とその母達に疎んじられ、国外へ追放されてしまう。 その後、ガーナ王国の旧都を手中に収めていたソソ王国の呪術王スマオロは、周辺諸国をも圧政下に敷こうとし、 王位に着いていた兄は逃亡したので、追放されていたスンジャータが軍を率いてスマオロに立ち向かうことになった。 強力な呪術師であるスマオロを倒すことは不可能と思われたが、臣下達の働きにより、 スマオロの魔法の楽器を奪い、またスマオロの肉体に唯一傷を付けられる弱点を知ることが出来た。 「キリナの戦い」に置いて、数の差は圧倒的に不利だったが、スンジャータはソソ軍を絶え間なく殺し続け、 スマオロに接近し、魔術師にとって禁忌である、鏃に白い鶏の蹴爪が仕込まれた矢を放った。 矢に当たったスマオロは、体から魔力が抜けていくのを感じ取って逃亡し、そのまま消えてしまった。 こうして最大の難敵であった呪術王を倒したスンジャータは旧ガーナ領の覇権を確立し、 以後は政府を創設、農業の発展と国内の治安の維持に力を注いだ。 尚、スンジャータの死因は矢による暗殺とも、不慮の溺死とも言われている。 【コメント】 宝具は、大体の不死身者に有効だが、アヴァロンとアキレウスには多分通じない。 あと、聖杯に接続されて魔力無尽蔵なサーヴァントには殆ど意味が無く、ユグドミレニアのサーヴァントみたいに、 他所の大勢から魔力供給させてる相手にも効果遅いので、物理で倒す方が早い。 適正クラスはアーチャーのみだが、ライダーやランサーになれないこともない。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5634.html
前ページ次ページデジモンサーヴァント 「はあはあ……」 俺は走る。 無我夢中で。 気がついたら、俺は何故かこの姿になっていた。 気がついたら、俺はリアルワールドにいた。 気がついたら、俺は見たことも無い機械を手に持ち、何故かそれの名前を知っていた。 人間たちが、俺を恐れている。 恐れていない人間たちは、他のデジモンたちと連携して、俺を捕まえようとする。 彼らは俺に呼びかける、「危害を加えるつもりは無い」と。 それを聞き、止まろうとして、突如として正面に現れた鏡のような物体に俺は突っ込んでしまった。 その日、一人の究極体が錯乱状態で都内を彷徨い、突如としてその姿を消した。 分かっているのは、我々の呼びかけに反応し、止まろうとしたことだけである。 俺がサイバードラモンと出会った方のデジタルワールドから来たのか、賢と出会った方のデジタルワールドから来たのか……。 ひょっとしたら、どちらでもない全く別のデジタルワールドから来たのだろうか? 真相は闇の中だ……。 秋山リョウ 第一節「ナイト・オブ・ザ・ミョズニトニルン」 視界が晴れると、そこは草原だった。 そこには、さっきまでいたリアルワールドのそれとは明らかに違う服を着ている人間たちがいる。 自分が召喚した者を見て、ルイズは戸惑った。 漆黒の鎧をまとい、マントを羽織った、目の前の存在に。 他の生徒たちは、メイジを召喚したのかと、どよめく。 だがルイズは、何となくではあるが、目の前にいるのは人外ではないかと思った。 「ここは何処だ? 教えてくれ」 彼が声を発し、それにルイズは自然と応えた。 「ここは、トリステイン魔法学院よ」 「聞いたことが無いな……。俺は……アルファモン。君の名は?」 「ルイズよ」 「ルイズか……。ルイズ、俺は、何故ここにいるんだ?」 何故か憔悴しているアルファモンを落ち着かせようと、自分が召喚したと告げようとした直後、隣にいるコルベールに遮られた。 「ミス・ヴァリエール、他の生徒たちを待たせてはいけません。先に契約を済ませてください」 コルベールに促され、ルイズは渋々先に契約を済ませることにした。 「ごめんなさい、事情は後で話すから」 アルファモンに謝罪し、コントラクト・サーヴァントを詠唱して、口付けした。 アルファモンは驚くより先に、凄まじい熱さを額に感じ、思わずうめく。 その額には、純白のルーンが刻まれていた。 「い、今のは!?」 「大丈夫、ルーンが刻まれただけよ」 その日の夜、ルイズは自室で、アルファモンにこの世界のこと、サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントについて、アルファモンに教えていた。 アルファモンは、自分がルイズによって召喚され、そしてあのときのキスで使い魔になったことを知る。 落ち着きを取り戻したアルファモンは、不思議とその事実を受け入れていた。 究極体である彼に、ルーンの洗脳効果は効かない。 彼は自分の意思だけでそれを受け入れた。 ルイズは、今度は問い質した。 何処から来たのか、何者なのか、そして召喚された時に手に持っていたものは何かを。 アルファモンは、淡々と答える。 「俺は、こことは違う別の世界から来た、「デジモン」という人外の存在だ。そして、これに関しては「デジヴァイス」という名前以外全く分からない」 「別の世界から来た!?」 「そうだ。俺はデジタルワールドと呼ばれるデジモンたちが住む世界から、人間たちが住むリアルワールドに迷い込み、そこで君に召喚された」 「そうなの……」 そして、アルファモンはルイズにデジヴァイスを手渡した。 驚くルイズを尻目に、アルファモンは続ける。 「これを君に」 「いいの?」 「何となくだが、君が持っていた方がいい気がするんだ」 そう言って、アルファモンは更に続けようとするが、思いとどまった。 広場から、女子寮へと行く際、違和感を感じた。 ルイズだけ、歩いていたことに。 何故ルイズだけ歩いていたのかを聞こうとしたのだ。 (俺は今、聞いてはいけないことを聞こうとした……) 気を取り直し、アルファモンはそっと話題を変えた。 「ルイズ、使い魔とは、何をすればいいんだ?」 「使い魔には三つの役目があるの。感覚の共有に秘薬の材料の調達。そして主の身を守ること」 ルイズの説明に、フムフムとうなずくアルファモン。 ルイズは試しに目を閉じる。 そこには、アルファモンを見上げながら両目を閉じた自分の姿が移った。 「感覚の共有は可能みたいね」 「秘薬の材料の調達だが、俺はこの世界に来たばかりだから無理だな。そして最後の一つ……、俺にうってつけ、だな」 「あなた、強いの?」 「あまり嬉しくはないが、強い」 そう言って、アルファモンはうつむく。 悪いことを聞いてしまったと勘違いしたルイズは、思わず謝りそうになったが、アルファモンに先手を打たれた。 「君は悪くない。悪いのは、勝手に感傷に浸った俺の方だ」 アルファモンはそう言って立ち上がり、ドアに手をかける。 「何処へ行くの?」 「散歩も兼ねて、学院内を探検してくる。安心しろ、逃げたりしないさ」 夜の学院を、アルファモンが歩き回る。 アルファモンは、学院の内部をある程度見てまわったところで食堂に入り、小さな人形たちが踊る光景を目の当たりにする。 アルファモンにとって、それは不思議以外の言葉が当てはまらない光景だった。 「魔法で動いているの、か?」 アルファモンを尻目に、アルヴィーたちは踊り続ける。 彼らの踊りをしばらく眺め、やがて飽きてきたアルファモンは食堂を出ようとした。 しかし、背後に気配を感じ、右腕を振り回しながら物凄い勢いで振り向く。 そこには誰もいない。 よく見ると、ネズミが月明りに照らされていた。 「ネズミか」 そう言い残し、アルファモンは食堂を出た。 アルファモンの足音が徐々に遠くなる。 聞こえなくなった直後、ネズミは暗がりへと逃げた。 直後、そこから人のようなものが現れる。 「空白の席の主……、まさかこの目で見れようとはな。我(われ)がオスマンの使い魔となりて百と五十年。これだから人間の側にいるのは止められぬ」 平時はネズミに化け、モートソグニルと呼ばれる、オールド・オスマンの使い魔。 七大魔王が一人、リリスモン。 「弄りがいがなさそうだから、代わりにルイズの方を弄ってやるかの」 リリスモンは月明りに照らされながら微笑んだ。 次回、「アイ・アム・ナッシングネス」まで、サヨウナラ…… 前ページ次ページデジモンサーヴァント